火曜日の幻想譚 Ⅱ
170.お祖父ちゃんの葬儀
お祖父ちゃんが亡くなった。享年93歳。大往生と言っていいだろう。
お祖父ちゃんは、晩年になってから今で言うところのミニマリストになり、遺品は着る物数着と老眼鏡、入れ歯、後はお祖母ちゃんに仕方なく持たされたスマホぐらいのものだった。
しかしこれでは、棺に入れる副葬品があまりに少なすぎる。困ったお祖母ちゃんは、僕ら親族を集めて相談した。何か棺に入れる良いものはないだろうかと。紛糾した議論の最中、お祖父ちゃんの大好物をみんなが思い出した。そうだ、その手があったか。
かくして、お祖父ちゃんの葬儀の日となった。僕らはみな、副葬品を用意して火葬場に赴く。
まず皮切りにお祖母ちゃんが、お棺に玉ねぎを入れる。涙があふれているのは、玉ねぎのせいだけじゃないだろう。次に伯父さんたちがきれいなオレンジ色のニンジンを放り込む。母さんたちが後に続き、皮をむいたジャガイモをゴロゴロと惜しみなく入れていく。孫の僕らは、カレールーをお祖父ちゃんの周囲に添えることにする。ちゃんと香辛料から入れようかという意見もあったが、故人の好きなルーがあったため、その銘柄に統一することにした。
準備は完了だ。棺が炉に入れられ点火される。悲しみに暮れる僕ら遺族の周囲に、食欲をそそる香りが漂ってくる。
僕は、悲しみを振り払いながらお皿にご飯を盛り付ける。人数分行き渡ったところで、ちょうど火葬が終わった。
お祖母ちゃんが泣きながらおたまを持って、一人ずつ僕らによそってくれる。僕らは供養とばかりに、それをスプーンですくって口へと運ぶ。
「うん。おいしい」
「火力が違うとやっぱり、味も違うね」
「ナン、もらえるかな」
悲しみの中にポッと咲く安堵の吐息。そんなふうに皆の悲しみが少し癒えた直後、いとこが妙な疑問を口にした。
「誰か、棺にお肉入れたっけ?」