火曜日の幻想譚 Ⅱ
169.絶交の交わり
ピンポーン。
「しんちゃーん、前野君よー」
前野のやつが来た。今日、学校でけんかして絶交したのに。まさか、舌の根も乾かぬうちに仲直りをしにきたわけじゃあるまいな。
とりあえず対応を考える。一番良いのは帰ってもらうことだ。しかし取り次いでいるお母さんは、まだ僕らが絶交したという事実を知らない。そしてその事実を知れば、仲直りするよう仕向けてくるのが親というものだ。ということは、帰ってもらうという選択肢はお母さんにばれるから、取らない方が良いだろう。かといって、部屋に上げてしまっては仲直りをしたも同然だ。そうだ、ここは一つ、玄関先でずっと待っていてもらおう。
ということで、「今すぐ行く」と母に言い渡し、前野を寒い玄関先に放置する。僕はその間、暖かい自分の部屋で、ゲームで遊んでいた。
それから数時間。気づくと、僕の部屋の窓から前野が見つめている。僕がゲームをしている様子を見て、ニヤニヤ笑っているのだ。僕はその前野のニヤニヤ顔を見て、頭にきた。やっぱりこいつとは絶交して正解だった。だが、ここで相手をしてしまえば絶交をした意味はない。僕はトイレへ行くふりをして、一度部屋を離れた。
しばらく自分の部屋をのぞき見していると、前野は窓から部屋に上がり込んでいた。そして、僕のゲーム機でゲームをしている。あいつ、僕の部屋に居座って、なんとか仲直りにこぎつけるつもりだな。それなら僕にも考えがある。僕は玄関へ行き、自分の靴を履いて外に出た。
その夜、僕は前野のおばさんにこっぴどく叱られて、お母さんの前に突き出された。勝手に前野の家に上がり込み、前野の部屋でゲームをしていたからだ。前野も同様の理由で、僕のお母さんにこっぴどく怒られ、おばさんの前に突き出される。
「いくら仲が良くても、おうちを取り換えることはできないのよ」
「まったく、何でこんなくだらないこと、考えたんだろうねぇ」
お母さんとおばさんに叱られる中、僕と前野はきまりが悪くて下を向いていたが、やがて顔を上げる。
そして目が合うと、お互いへへっと笑った。