火曜日の幻想譚 Ⅱ
174.名誉の譲渡を願います
いろいろあって揚げ物の起源を調べていたら、どうやら古代ローマの書物にそのレシピが記されていたらしい。
古代ローマのかたがたは相変わらずやり手だ。だが、今日はそのことを褒め称えたいわけではない。彼らのすごさは、現代に生きる僕らも十二分に分かっている。今回、伝えたいことはその名誉、ちょっと別のやつに譲ってあげてくれないか、ということなのだ。
実は上述のように、揚げ物の起源を調べていて、もう一つ別の説にぶち当たった。まあ、説といえるかどうか微妙な話なのだが。
ウコバクという名前の悪魔をご存じだろうか。ゲームなどにもちらほら出てくるので、ご存じの方もいるかもしれない。彼は地獄の釜に油を注ぐという役割を担っている悪魔で、そんな仕事をしていることからも予想される通り、悪魔としては下級だ。あのはえの王、ベルゼブブの配下であるという。
そんなしょぼい悪魔と揚げ物に何の関係があるのか、そうお思いの方もいるかもしれない。だが、1800年代に、コラン・ド・プランシーというおじさんが書いた、「地獄の辞典」という書のこのウコバクの項目に、花火と揚げ物を発明した悪魔だという記載があるのだ。
仕事が仕事だけあって、その発明品も炎や油が関係するものだが、下級の悪魔としてはよくやっているほうではないだろうか。来る日も来る日も、地獄の釜に油を注ぐつまらない毎日。こんなことをやっていていいのかという葛藤。自分は果たして本当に悪魔なのだろうか、という自問に信念が揺らぐ。そんな中、彼がちょっとした気晴らしに発明した料理。油をたっぷり使ってカラッと揚げるその料理法を、あるとき古代ローマの人間に教えてあげた、そうに違いないのではないか。
そんなのうそに決まってる? 悪魔なんてこの世にいるわけがない? でも、この揚げ物という料理、悪魔が発明したとするほうが、妙にしっくり来るのだ。
まず、揚げ物は悪魔的にうまいではないか。文字通り悪魔的だ。そして中毒性がある。唐揚げなんて何個でも食べられてしまうだろう。そして、最後に太る。太らせて、人間を堕落させたり、食べたりしようとしている悪魔にはうってつけだ。こう考えていくと、もはや悪魔が発明したとしか思えない。
ほら、これを読んでいるあなたも何となく、古代ローマの民よりも、悪魔が揚げ物を作ったことにしておいたほうが良いと思えてきただろう。偉大なるローマの発明にするより、哀れな小悪魔の発明にしておいたほうが、世の中いろいろと丸く収まるというものだ。
あ、でも、花火のほうはいいです、なんか華やかで悪魔の感じしないから。