火曜日の幻想譚 Ⅱ
173.天気占い
「あーした、天気になぁーれっ」
こう言って、履いてる靴を蹴り上げて、明日の天気を占う遊びがあるだろう。靴が表〈足を入れるほうが上〉なら明日は晴れ、裏〈靴底が上〉なら雨というやつだ。
大人になった今、急にこの遊びがやりたくなった。というわけで、近くの林へと赴く。ここならば、思いっきり靴を飛ばせるだろう。そう思い、右足を思いっきり後ろから前へと振り抜いた。
「…………」
何の反応もない。どこかに落ちた様子もなければ、木に引っかかった様子もない。靴が飛びそうな場所を探し回り、引っかかっていそうな木を揺さぶってみたが、靴は見つからなかった。
「どこに行ったんだ?」
別に、それほど大切な靴というわけでもない。家に帰れば代わりの靴はいくらでもある。だがその家まで、片方の靴だけで帰るのが気恥ずかしくて、必死に靴を探しつづけた。
「駄目だ、見つかんない。帰ろ」
数時間後、気恥ずかしさより面倒臭さのほうが上回り、結局靴は見つからないまま林を後にすることにした。
その日の夜。
湯船につかりながら、昼間のことについて考える。あれだけ探しても、蹴り上げた靴は見つからなかった。
「もしかしたら、明日の天気は存在しない、それどころか明日自体が存在しないのかもな。だから、明日の天気を占う靴も消えてしまった」
下らないことをふいに思いついて、苦笑する。
そろそろ日付が変わる時刻だ。明日の天気はどうな