火曜日の幻想譚 Ⅱ
182.かぼちゃ
かぼちゃを丸ごと一個もらった。濃い緑色でまん丸の、人間のあたま大のかぼちゃだ。
さっそく煮物を作ろう。かぼちゃをまな板に乗せ、包丁を用意する。その瞬間、むくむくともたげてくるサディスティックな欲望。大嫌いなあいつの顔が、脳裏にリアルに蘇る。
気づくと、逆手に持った包丁を渾身の力で振り下ろしていた。ヘタの数ミリ横に、深々と突き刺さる銀鼠の刃。
包丁を持ち替え、刃を押し当てるようにかぼちゃを割り開いていく。あいつの憎たらしいニヤケ顔が醜く歪むさまを思い描きながら。
かぼちゃが二つに割れても、まだあいつへの憎悪はおさまらない。今度はスプーンを手に取り、二つになった片方に突き刺していく。抉るように、掻き出すように、こそぎ落とすように、人の思考中枢のような種とわたを取り払う。
一口大に切って煮るころ、ようやく自分の中の嗜虐心が収まってくる。ことことと音を立てる鍋、落し蓋からのぞくほこほこの黄土色。ゆっくりと竹串を通して火の通りを確認する。良い感じだ。そのまま竹串で引き上げて、味見をする。うん、おいしい。
最後に皿に取り分けて、完成。
嫌いなやつを滅多刺しにできて、しかもおいしい。ああ、かぼちゃって最高だ。