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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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186.泣きたい



 ああ、泣きたい。

 めちゃくちゃに打ちのめされ、はいつくばって、逃げるように家に帰ってくる。着替えもせず、食事もせず、ただただ布団をかぶって潜り込む。

 どうしようもなく泣きたい。めちゃくちゃに泣いてしまいたい。

 そうすることができれば、どれだけ楽だろうか。大声を上げて、涙を流すことができれば、どれだけ救われるか。そう思うけれど、それが僕には無理なんだ。

 僕は、泣くことのマニアでも、専門家でもないから。

 僕はみんなのように泣くことは不可能だ。みんなのようにうまく、人の感情を揺さぶるように、心中の悲しみを浄化するように、美しく泣くことなんてできやしないんだ。

 ああ、うまくなりたい。上手に泣くことができるようになりたい。そうすれば、どんなに悔しいことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、耐えることができるのに。

 打ちのめされた悲しさと、泣けない悲しさとを胸に秘め、僕は枕の模様を乾いた眼でじっと見つめ続けていた。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔