火曜日の幻想譚 Ⅱ
185.骨
行きつけの定食屋でのこと。
「今年の新人は、どうも骨のないやつが多くて」
こうのたまう、一人のおじさんがいた。向かいに座る部下と思しき男が、すかさず相づちを打っている。私は見知らぬ彼らのその姿を、別のテーブルからながめていた。
こんな話を聞いたとき、私の中の悪い癖がむくりと頭をもたげてくる。弱いものの味方が好きな私は、この言葉に反応して若者のほうを心中で応援してしまうのだ。
おじさんはサバのミソ煮定食を食べていた。彼は知らないかもしれないが、私は知っている。ここのサバは、骨をあらかじめ取っていることを。その証拠に彼の皿には、骨を取り除いた様子はない。
(若いやつには骨を求めて、食べる魚は骨無しかぁ……)
それだけでも、妙に皮肉が効いている。だが、さらに追い打ちをかけたくなる。
そもそも骨のないことが、なぜいけないのだろうか。『木強ければ折れやすし』というように、下手に芯が通っていると、思わぬ挫折をすることもあるのではないか。反対に『柳に雪折れなし』とも言うように、その新人たちはしなやかに生き抜く可能性もあるかもしれない。それを頭ごなしに骨がないだなんて、うかうかしてると寝首をかかれるかもしれないな、あのおじさん。
「しょうが焼き、お待たせしました」
こんな事を考えているうちに、頼んでいた定食が届く。おじさんとその部下は席を立ち、会計に向かっている。
強い木でもなければ柳でもないただの軟弱者の私は、今まで考えていたことを全てうっちゃって、出てきたしょうが焼きをほおばった。