火曜日の幻想譚 Ⅱ
188.恋人は濃い人
昔、つきあっていた彼は、顔が濃い人だった。背も高かったので、いでたちは本当に外国の人のようだった。でも、別にハーフとか、クォーターとか言うわけではなかったらしい。先祖に外国の人がいたという話も特に聞いたことがないと、いつか話していた。
そんな彼は顔に似合わず和食党で、よくデートでお寿司屋さんや日本料理の店に連れてってくれた。その時も、箸をちゃんと使えるかどうか聞かれたり、日本語がわかるかどうか確認されたりして、可笑しいなと思いつつ、少し同情する場面もあった。
食だけでなく、衣服も日本のものを好んでいたようで、花火大会などはよく甚兵衛姿で現れたものだった。甚兵衛に雪駄で屋台の食べ物を食べる姿は、すっかり日本になじんでいる外国人のようで、周囲から温かい目で見られ、一緒にいた私も少し恥ずかしかった。
そんな風に、いろいろありつつも幸せなお付き合いをしていたのだが、一つ気づいたことがあった。やはり親近感を感じるのだろうか、彼は非常に良く外国の方に道を聞かれるのだ。駅への道、図書館の場所、近くの公園、有名な寺社仏閣……。
彼はそんな顔つきにもかかわらず、英語の方はからっきしダメだったようだ。なので身ぶり手ぶりで説明し、何とかやり過ごすありさまだった。
そんな風にあたふたしている彼を、私はどこか頼りなく感じ始めていたのかもしれない。そのせいか、程なくして疎遠になり、いつしか関係は自然消滅してしまった。