小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

火曜日の幻想譚 Ⅱ

INDEX|50ページ/120ページ|

次のページ前のページ
 

191.真夜中の叫び声



 仕事が立て込んで、家で徹夜をしていたときのこと。一心不乱にパソコンと向かい合っている最中、ものすごい叫び声が聞こえた。

 その叫び声は20秒ほど続き、やがて途切れるように消える。僕はその声に思わず体をビクンと震わせて、立ち上がりカーテンを開いた。窓から見える景色は、特に今までのそれと変わりはない。
「何だったんだ、今の声」
一人つぶやいても、誰も教えてくれるわけがない。それより仕事だ、何とか間に合わせねば。僕は再びパソコンの前に向かい、一心不乱にデバッグに取り掛かった。


 それから数日後。
 何とか仕事を間に合わせた僕は、何日か有休を取って、積んであったゲームを昼夜ぶっ通しでやり続けていた。傍らにはスナック菓子とジュース。人生でもっとも楽しい時間と言っていいだろう。そんな至福の時間の中、聞き覚えのある叫び声が突然聞こえた。
「こないだの声か?」
僕は再びカーテンを開き、周囲の様子を探る。深夜の住宅街はしんとしたまま、何の動きもない。
「……何なんだろう」
思わず不審な顔つきのまま、再びゲーム画面に向き合った。
 有休の間、僕はそれこそ寝ることをほとんど忘れて、ゲームをやり続けた。毎夜毎夜、日が昇るまでコントローラーを握り続け、明け方に少し仮眠を取る。そして昼頃にはまた起き出して、ゲームを始めるのだ。
 そのおかげで、あの叫び声についていろいろ分かった。どうやらあの声は、毎晩必ず2時36分ちょうどに聞こえるのだ。ふいに聞こえる叫び声は怖いが、規則的に聞こえる叫び声はそれほど怖くない。おおかた仕事の都合上、その時間に起きる人が叫び声を録音し、アラームとして使っているのだろう。ちょっと趣味が悪いことは否めないが、すぐさま飛び起きるような音声ではある。
 寝起きは社会人にとって死活問題だ、その気持ちが痛いほどよく分かる僕は、叫び声が聞こえても気にせずゲームに集中し続けた。


 さらに数日がたった。
 有休が終わり久々に会社に出勤する日、家の近所で殺人事件が発生した。犯人は深夜の2時半過ぎに女性を刺殺し、現在も逃走中だという。
 朝、そのニュースを見た僕はがく然とする。
「2時半過ぎに……、女の人を刺殺」

 もしかしたらこの犯人は、初めから深夜2時半過ぎに犯行を起こす気でいたのではないだろうか。だがそんな深夜に女性の叫び声が聞こえたら、周囲に住む誰かが通報する可能性は高い。もちろん、犯人は通報されたくはないはず。じゃあ通報されないためには、どうすればいいか。前もって2時半過ぎに女性の叫び声を周囲に聞かせておけば、「ああ、またか」と近隣の住人は思うのではないか。
「…………」
どす黒く心中に広がっていく罪悪感と、いまさらどうしようもないという無力感。

 自分の考えの甘さで、人を一人死なせてしまったかもしれない。そんな恐ろしい事実を胸に秘めながら、僕は有休明けの仕事に取り掛かった。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔