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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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236.唇



 私が勤めている会社に、とある女性が働いていました。

 言動や立ち居振る舞いに、おかしな所はありません。仕事ぶりも何の問題もない、いたって普通の女性です。しかしその女性は、ある部分が他の女性と違っていました。彼女の唇、それが雪のように真っ白だったのです。
 最初はそういうリップクリームや、化粧品を使用しているのかと思いました。しかし、どうもそういう訳ではないようです。異常な冷え性で凍えながら仕事をしている、という可能性も考えられます。でもカーディガン等を羽織る姿は見かけても、過剰に着込んでいる様子はありません。他にも貧血やヘルペス等々、唇が白くなる症状は幾つかあるようです。でも彼女の唇の白さが、そのどれに該当するかはわかりません。
 直接本人に聞く機会もなかったため、彼女の唇の秘密は謎のまま日々は過ぎていくのでした。

 ほどなくして彼女は、急に会社に来なくなりました。

 どうしたのかと思っていたら、社内報に彼女の訃報が載っていました。それによると、彼女は白血病で亡くなったという事でした。さらに詳しく読んでみると、白血病だと血液の循環が上手くいかない事があるようで、唇が真っ白になる事がある、とも書かれていました。
「なるほど、どおりで」
私は彼女の生前の唇の白さに合点が行き、この事を周囲の同僚にそれとなく語りました。すると、なんということでしょう。驚く事に私以外の誰もが、彼女の唇が白い事に気づいていなかったのです。すなわち私以外の社員全員が、生前の彼女の唇は紅々として、正常であったと言うのです。私がいつも見ていた彼女のあの真っ白な唇は、幻だったのでしょうか? それはちょっと信じられない話です。一瞬だけならまだしも、私は長期間彼女の唇を気にしてきました。しかし、一日たりとも彼女の唇が白くなかった日はなかったのです。
 このことが発覚して以来、妙に重苦しい日々を私は過ごしてきました。そして今日、恐ろしいことが起きてしまったのです。朝起きて洗面所に足を運び、私は鏡で自分の顔を見ました。するとあの女性と同じ、真っ白な唇がそこに映っていたのです!


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔