火曜日の幻想譚 Ⅱ
237.別離
君がこの街を出ていくと知って、僕らは見送りに行ったんだ。
この街の唯一の駅。その入り口で、僕らと君は向かい合う。皆が次々に別れの言葉を述べていく。けれども、僕は悲しさのあまり言葉が出なかった。ただただ、涙が溜まった目で君の顔を見上げる。君は、いつも通りの笑顔を僕に向けてくれた。嬉しかった。けれど、これももう最後だと思うとやっぱり胸が詰まった。
君への思いを伝えたい。君もきっと、それを欲しているだろう。二人の思いは一緒なのに、それなのに、僕はやっぱり何も言えなかった。
きっと、君に会うのは最後だろう。ぼくは、そんな予感すらしていたのに。結局、最後まで何の言葉も出なかった。
そんな僕に、最後、君は丁寧に頭を撫でてくれた。
挨拶も終わり、君は名残惜しそうに、改札にカードをタッチする。君の後ろ姿は、駅の構内へと吸い込まれていった。
帰り道、僕らは少し遠回りをする。嫌になるほど紅い夕陽を横目に、ひたすら土手を歩いた。君がいなくなってこんがらがった頭が、少しは整理されてやっと言葉が吐き出せた。
「ワオオオオオォォォォォォ――――――ン」
でも、想いを込めた僕の精いっぱいの遠吠えは、遠くの君に届くはずもなく。ただただ全てが、手遅れで。
……さ、ご主人。悲しくて仕方がないから、おうちに帰ったらちゅーるを下さいな。