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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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197.新しい刑



 先日、とある国の刑務所で非常に変わった刑が執行された。

 執行日の朝。
 刑務所前の広場には、たくさんの国民が詰め掛けていた。彼らはみな手にスマホやタブレット、ノートパソコンを持ち、受付係に早くするよう急かしている。

 やがて、おりに入った受刑者が登場する。国民たちはワーッっと沸き立ち、一斉に駆け寄ってくる。刑務官が必死に押し返すが、なかなかうまく行かない。

 そうしているうちに、執行の時刻になった。集まってきた者たちは、ドサドサと持ってきたIT機器を受刑者の前に置いていく。彼らの目の前はあっという間に機器の山ができる。
 受刑者の一人は、暗い顔で1台のスマホを手に取った。そして、何やら操作を始める。その後、しばらくうつろな目で画面を見据えたあと、そのスマホを傍らの『完了』の箱に入れた。
 他の受刑者も同様の作業を始め、1台ずつIT機器に何らかの操作を加えたあと、しばらく画面を見つめ『完了』の箱に入れていく。

 実は彼ら、広告を見ているのである。

 彼らは、機器を指示通りに操作し、指定された広告を閲覧する。そして閲覧後、機器を持ち主に返すのだ。結果として持ち主は広告を見ずに、広告を見たのと同じ恩恵を得ることができる。
 一方、受刑者は、ただひたすら広告をながめるだけ。終生、刑務所を出ることができない彼らには、何の広告を見ても、購入の権利はないのだ。葬儀屋の広告でもあれば、また話は別かもしれないが。

 なお今現在、彼ら受刑者によって広告は、一日数万PVほど見られているそうだ。


 だが、この国で執行された、『広告視聴の刑罰』は、さまざまな議論を呼んだ。

 やはり、広告業界はあまりいい顔をしていない。
「広告閲覧は罰ではない。広告を見ることが楽しいという人もいる。ことさらネット広告だけを刑の対象にするのは、喜ばしいことではない」

 また反対派の中には、問題点を指摘する意見もある。特にその中でも多いのは、
「スマホなど、個人情報の塊のようなものを受刑者に渡していいのだろうか」
という意見だ。政府は、
「彼らが機器を不正に扱ったり、利用者の個人情報を盗んだりしないよう、作業中は刑務官がピッタリと張り付いている」
という反論を出してはいるが、説得力はそれほどない。

 だが、国民の中にはありがたいという声も少なくない。
「うざいんすよね。ゲームアプリなんかで、わざと下手な動きして、俺ならこうする感を引き出させるの。そんな広告が2回も3回も続いた日にゃ、スマホ投げたくなりますよ、ほんと」

 また、意外なところからも肯定の声が上がっている。他ならぬ受刑者自身からだ。
「退屈なムショの中よりはよっぽどいいよ。それに、出会い系の広告とか、たまにいい女も見られるからね」

 『広告視聴の刑』がこれからどうなるか、行く末を見守っていきたい。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔