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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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198.明ける夜しかない



 明けない夜はない、と、よく言うじゃないか。

 止まない雨、出口のないトンネル、そしてこの明けない夜。3大ないもの、もしくは3大ポジティブ名言として、よく聞かれる言葉だが、この言葉、本当にポジティブなのだろうか。
 字面だけ取れば、そりゃあポジティブだろう。ただそれは、周囲の見えない真っ暗な夜、獣の遠ぼえが響き渡る地ならば、だ。現代にそんな恐ろしい地、ないこともないだろうが、正直、日本ではとても少ないのではないかと思う。だがその変わり、われわれには、明けてほしくない夜がたくさんあるのだ。
 日曜日、こういえば大体の方は察しがつくのではないだろうか。週の始まりである憂鬱な月曜日を控えた夜。明日に響くことが分かっていても、ついついなんとなく夜ふかしをしてしまう。それならばまだいいほうだ。ひどい時は、月曜日が嫌すぎて病気になってしまう。そんな月曜日の前の晩に、明けない夜はないなんて言われたら、それこそ発狂してしまいかねない恐ろしさだ。そう。今の時代、夜など明けてくれないほうがいいのである。

 とは言ったものの今のところ、明けない夜はないのは事実だ。日曜の深夜、この文章を書きながら恐れおののいてる私に、救いの手が差し伸べられることは今のところなさそうだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔