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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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199.悩み



 ぶたさんは考え込んでいました。自分はなぜぶたっ鼻なのだろうかと。

 理由は他でもありません。ついさっき、ある動物にこのぶたっ鼻をばかにされたからです。
「何とか、普通の鼻にならないもんかなあ」
ぶたさんは、前脚で器用に鼻をこすります。でも、その鼻の穴はまっすぐ前を向いていて、普通の鼻にはなれそうにありません。
「一人で考えていても仕方がない。他の動物に相談してみよう」

 ぶたさんは、牧場内を探してみました。そこで、一匹のおうまさんに出会います。おうまさんの鼻は、ちゃんと下を向いています。彼なら、何か良い知恵を授けてくれるかもしれません。
「おうまさん、おうまさん。僕の鼻を普通にする方法を知りませんか」
ぶたさんは問いかけますが、おうまさんは考え込んだままです。
「ああ、なんだい、ぶたさん」
やっとお馬さんは気づきます。でもなんだか浮かない顔です。ぶたさんは、浮かない顔をしている理由を聞いてみました。すると、おうまさんは答えます。
「ああ、ついさっき、僕の馬面をね、ばかにされたんだ。だから、丸顔になりたいんだよ」
ぶたさんとおうまさんは、自分たちの悩みを解決できる動物はいないか、探しに出かけたのです。

 二匹は、サバンナに入っていきました。そこで、きりんさんに出会います。きりんさんはいつもボーッとしているので少々頼りありませんが、二人は思い切って悩みを相談してみることにしました。
「きりんさん、きりんさん。僕らの悩みを聞いてくださいな」
問いかけても、きりんさんは相変わらずボーッとしています。
「こりゃダメだ」
と立ち去ろうとしたとき、きりんさんが気づいて言いました。
「なんだい? 僕、さっき首が長いってばかにされたんで、どうしたらいいか考え込んでるんだ」
新たにきりんさんを加えた三匹は、自分の悩みを解決できる動物を、探しに出かけます。

 三匹は、森の中へ入っていきました。そこで、オランウータンさんに出会います。オランウータンさんなら、きっとなんとかしてくれるだろう。そう思い、三匹は自分の悩みを話しました。すると、オランウータンさんは言うのです。
「みんな、それ、誰に言われたんだい?」
三匹は、口をそろえていいます。
「人間だよ」
その答えを聞いて、オランウータンさんはフフッと笑って言いました。
「ああ、人間。必死に自慢をしてもぶたさんほど高い鼻になれないし、たくさんの知り合いを作ってもおうまさんほど顔が広くなれないし、嫌というほど待ち焦がれてもきりんさんほど首が長くなれないあの哀れな動物か」
三匹が顔を見合わせる中、オランウータンさんはさらに言いました。
「あんな奴の言うことなんか気にしなくていいよ。少々頭が回る位しか取りえがないんだから」

 三匹はオランウータンさんの言うとおり、言われたことをすっかり忘れ幸せに暮らしましたとさ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔