火曜日の幻想譚 Ⅱ
238.スーパーボール
子供のころ、友だち数人と遊んでいたときのことだった。僕らは、それぞれ持っていたスーパーボールを持ち寄って道路にバウンドさせていた。
その日はみんな、どれも自慢のスーパーボールを持ってきていた。大きいもの、よく跳ねるもの、柄が美しいもの、少し歪でレアなもの……。
その中でも僕のが、抜きん出て一番きれいだったように今でも思う。だが、みんなはそれを認めない。やはり自分のスーパーボールが一番だと思っているのだ。血気盛んな年頃だ、そう思うのも仕方がない。じゃあ、一番のスーパーボールを決めようじゃないか。当然そんな流れになる。先ほど挙げたような大きさや美しさといった指標を決めて、総合点の最も高いスーパーボールを決めようというわけだ。
無論子供のやることだ、どうしたって主観が交じる。だいたい美しさなんて、どうやって決めようとしたんだろうか。だが取りあえず、「一番跳ねるのはどれだ部門」から始めようということになった。
「よーし、やってやるぞ」
一番手の僕は腕をぐるぐる回して、コンディションを整える。力いっぱいやれば、間違いなくこのボールの勝ちだ。準備を終えて、僕は目一杯、真下のアスファルトにスーパーボールをたたきつけた。
「うぉー、すっげぇ」
周囲から歓声が上がり、僕のは高く高く飛んでいく。だが、少しやりすぎてしまい、落下地点はかなり遠くになってしまった。
僕は、落ちたであろう場所へと走って向かっていく。しかし、ぱっと見では見つからなかった。近所の家にでも入り込んでしまったのか、それともどこかに引っかかってしまったのか。
いつまでたってもボールは見つからず、僕はすっかりテンションが下がってしまった。それもそうだ。肝心のスーパーボールがなければ、この後の競技にも参加できないのだ。
友人たちも興が冷めてしまったのか、そのままお開きになってしまったのをよく覚えている。
……30年がたち、久々に実家に帰ってきた今、ふとそのことを思い出した。
「ほんと、あのスーパーボールどこ行っちゃったんだろうな」
そんな独り言を言いながら、散歩に出かける。すっかり変わってしまった街並みを歩き、遊んでいた場所までたどり着く。
「いてっ」
突然、何かが頭に当たった。それは目の前をポンポンと跳ねて、少し先で動きを止める。僕は駆け寄りそれを拾い上げる。あのときなくしたのと、同じ模様のスーパーボールだった。
「……これ、もしかして僕の?」
周囲をきょろきょろ見回すが、何かを探していそうな子供はいない。僕は手のひらの中にあるボールをまじまじと見つめる。
「もしかして、今までずーっと跳ねていて、今やっと戻ってきたってこと?」
僕はボールを思わず握りしめた。ゴムの感触が当時を深く思い起こさせる。
「やっぱり、僕のが一番だったんだ」
上機嫌になって、思わず笑みがこぼれる。うれしさと懐かしさの中で、僕は帰路についた。