火曜日の幻想譚 Ⅱ
202.枯れない愛
ヒボタンというサボテンは、自力で光合成をすることができないらしい。
当然そのままでは、腐って枯れてしまうわけだが、他のサボテンを台として接ぎ木し、台のほうに光合成をしてもらうことで、枯れることなく生き長らえることができるようだ。画像を見たが、緑色のよく見るサボテンの上に、赤くて丸いど派手なサボテンが乗っかって、まるで明かりの入ったぼんぼりのようだった〈実際、キャンドルサボテンとも呼ばれているらしい〉。
私がこのヒボタンというものを意識しはじめたのは、そのぼんぼりのような形状の美しさもだが、それ以上に光合成が不可能であるというはかなさ、弱々しさに引かれたからだ。陸に打ち上げられた魚や、結核で肺の機能が低下していってるような、そんなうたかたのような繊細さを感じたのだ。
早速、花屋に行って鉢を一つ買ってくる。単体での生存を犠牲にして得られたその赤は、燃えるように輝き、病的な狂乱状態を示しているようだった。
ネットの情報を頼りに水をあげていく。取りあえず、肥料は特にいらないとのことだった。台のほうのサボテンが腐ってしまったら、一巻の終わりとのことだったが、初心者の私でも、運良く腐らせずにしばらく持たせることができた。
そしてある日のこと、ヒボタンは赤い球形の上部に美しい花を咲かせていた。球の赤を薄めたようなピンク色で咲くその花は、まるで幻を見ているかのようだった。私は感動とともに、考えを撤回せざるを得なかった。彼らヒボタンは全然弱々しくなんかない。むしろ貪欲に、台のサボテンから栄養を吸い取って生き抜いていたんだ。これからもその力強さを見届けよう、鉢の植え替えをして、台木の接ぎ替えもして、その力強さをできるだけ維持し続けてやろう。
そう思うと同時に、私はヒボタンの花言葉が「枯れない愛」だということを思い出したのだった。