火曜日の幻想譚 Ⅱ
205.解散理由
「だから、ちげぇだろ! 何回言やぁ、わかんだよ!」
ネタ合わせ中、また相方にこっぴどく怒られる。
「お前まだネタ書いてねえのかよ! 次のライブ、2本のうち1本お前に任すって言ったよな?」
ネタ合わせ後の打ち合わせでも怒られる。
「やる気だせよ、ったく」
こうして今日の「芸人」としての仕事は終わりを告げる。
正直な話、やる気がないわけじゃない。だが、こいつとはもうお笑いをやるべきではない、そう思っているだけだ。
バイト先で牛丼をよそいながら考える。今の相方の才能は本物だし、顔も悪くない。売れる要素は十二分に持っていると本当に思う。
掛け値なしでそう思うからこそ、相方が俺ではいけないんだと思う。
俺も才能がないわけではない、そう信じてはいる。だが、いわゆる大衆向きではないのだ。相方の笑いとは相反する笑い。その上、俺は芸人としてキャラが立っていないのだ。
始めは、相方が俺を引き上げてくれる、そんな甘い考えを抱いていた。だが、昨今のお笑いの状況も厳しくなっていく一方。片方がぽんこつなコンビなぞ、それこそ足をもがれた状態で戦っているようなもんなのだ。
だが、俺が解散を切り出せばどうなるか。あいつは熱っぽい瞳で、
「お前とじゃなきゃやりたくねえし、お前とじゃなきゃ売れたくねえ」
と、そんなことを語るに違いない。いや、実際何度もそう言われてきたんだ。その思いは本当にうれしい、うれしいが、このままずるずるとコンビを続けていたら、奴の才能を、奴の人生を、無駄にしちまうだろう。
こんな状況で俺の取る手は、一つしかなかった。もうやる気が失せていると思わせて、やつが愛想をつかすその時を待つこと。そうしなければ、俺たちが解散に至る道はないだろう。そしてそれが、あいつをスターにする唯一の方法だ。
俺なんぞ、踏み台にしてくれていい。でもいつか、あいつがテレビで爆笑を取る瞬間を待ち焦がれているよ。