火曜日の幻想譚 Ⅱ
208.ファインダー
お気に入りのカメラが壊れてしまった。
ファインダーをいくらのぞき込んでも、真っ暗で何も見えてこない。他の機能は問題ないようだが、肝心のファインダーがこれでは、ろくな写真など撮れやしない。
実際に外に出て、近所でいいと思った風景を2、3撮ってみる。当然、構図も何もありゃしない。野原にいる猫を画角に収めるのにも難儀する始末だ。
家に帰って現像してみると、案の定ひどいもんだった。先ほどの猫なんかも、本当にただ猫が写っているだけ。こりゃどうしようもないと思い、カメラを押し入れの奥にしまい込み、それっきりにしてしまった。
それから数年後。
近所の写真コンクールに、私の写真が入賞しているという知らせが入った。それに驚いておっとり刀で駆けつけてみると、撮った覚えのない猫の写真。はて、なぜ私の名前がと思って家に帰ると、やがて謎がとけた。どうやら、妻が私に隠れてこっそり応募していたらしい。そこまで聞かされてやっと思い出す。あの写真は、ファインダーが見えない中で撮った、あの猫の写真だ。予期せぬ賞金に気を良くしている妻の横で、私は複雑な表情をせざるを得なかった。
実は私は、何度もこのコンクールに自分の写真を応募し続けていた。だが、佳作に選ばれたことすらない。ということは、同じあのカメラで落選しつづけた写真と、選ばれたあの猫の写真との違いは、「私」のこのまなざしがあるかないかという、その一点のみだ。
くしくも私の目の狂いが証明されてしまったことになり、私のはらわたはグツグツと煮え立った。だが、こんなことを妻に当たっても仕方がない。私は怒りに任せて、押し入れの奥の件のカメラを引っ張り出し、粉々にたたき割った。
だが、直後に冷静になって思う。そんなことをしたって、私の実力が向上するわけじゃない。私は粉々になったカメラを前にして、さめざめと泣き続けるしかなかった。