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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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209.蕎麦喰い



 以前、こんな処刑方法を聞いたことがある。

 まず罪人に、これでもかというほど大量のそばを食わせる。たらふく食べさせてもう無理となったところを、刀で一気に斬首するのだそうだ。すると斬り口から、そばが勢いよく噴き出すらしい。死をそれほど意識しないで済む現代では、こんなもの、ただのグロテスクなだけの話かもしれない。だがそばをこよなく愛する私は、この処刑方法が心の隅にこびりついて離れないのだ。
 なんせ、死ぬ前に嫌と言うほど大好きなそばを食らうことができる。これは非常に魅力的だ。食わされすぎて最終的にそばが嫌いになりそうだが、すぐにあの世行きだと考えれば割り切れる。それだけではない。すぐさまあの世へ行くのだから、太ることを心配する必要もない。さらに、ど派手に死ぬことができる。もちろん、静かに世を去りたい方もいるかもしれない。だがこんな死も悪くはない、という意見があってもいいだろう。もし可能ならば、そばが噴き出す瞬間をギャラリーに画像に収めてほしい。いっそそばを食うところからの一連の所作を、動画に撮ってくれても構わない。それをSNSにアップロードしてくれれば、最高の手向けになりそうじゃないか。
 よくよく考えてみれば、何も自分だけがこれを味わう必要はない。世の中に麺類はそばだけじゃないのだ。うどん、ラーメン、焼きそば、そうめん、担々麺、冷やし中華、ビーフン、フォー……。それこそ枚挙に暇がない。
 こうして死刑囚も、病を得た者も、自ら死にたい者も、麺類を華麗に噴き出して死んでいけばいい。そうすればかつての処刑が見せ物であり、娯楽だった世が再び戻ってくるのではないだろうか。


 ただこれには、三つほど問題が存在する。一つ、食べ物で遊ぶなと言われてしまいそうなこと。もう一つ、そんな動画を載せたらアカウントを停止されるということ。最後に、別に処刑が見せ物であった時代に戻りたいとは、私も別に思っていないということだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔