火曜日の幻想譚 Ⅱ
213.嫌われプリン
これはどこか遠い国の、昔のお話です。
この国にある森の中に、嫌われ者のプリンが住んでいました。このプリンは工場で生まれたときから、食べられたくないと思っていました。確かに、スプーンで体を削られて、ムシャムシャされてしまうのは痛そうです。どうしても食べられたくないと思ったプリンは、作戦を考えつきました。わざと人に嫌われることをすれば、食べられないだろうと考えたのです。そこで、人が通るとつばをはきかけたり、わざと人の足の甲に乗っかって、驚かせたりするのです。そして、捕まえられて食べられてしまいそうだと思うと、プルプルプルプル震えて逃げてしまうのです。国民は困ってしまい、このプリンを嫌われプリンと名付け、あまり森の中に近寄らないようにしていました。
ある日、嫌われプリンが森の中を歩いていると、木の根っこにつまずきました。
「おっとっと」
慌てて体を立て直そうとしますが、なかなかうまく行きません。なにせプリンですから、少し転んだだけでも跡形もなく崩れてしまいます。これはもうだめかと思った瞬間、ふわりとやわらかい布で体が覆われたのです。
布の正体は、一人の少女のスカートでした。その少女がスカートを広げて、プリンを受け止めてくれたのです。
「あ、ありがとう」
慣れないお礼を言うプリンに、少女は優しくほほえんで言います。
「無事で、良かった」
それから、少女とプリンは森の中で遊びました。次の日も、そのまた次の日も遊びました。どれだけ遊んでもまだまだ遊びたい一人と一匹は、毎日毎日遊び続けました。それは、そんな日々が永遠に続くと思うほどの長さでした。
ところがある日を境に、ぱったり少女は来なくなってしまいます。心配したプリンが会いに行くと、少女は高熱で寝込んでいました。
「うーん。うーん」
うわ言のようにうなされている少女。お医者さんの話を盗み聞きしたところ、薬も効果がないようです。
プリンは、プルプル震えながら少女に近寄って話しかけます。
「ねえ。大丈夫?」
しかし少女は、うなされるばかり。このときプリンは、昔製造工場の工場長から聞いた話を思い出したのでした。
「風邪には、あまーいプリンがいいんだよ」
その言葉が、胸に鋭く突き刺さります。だって、食べられるのが嫌で森の中で頑張って嫌われてきたのです。やっぱり食べられたくはありません。でも、このままでは少女は……。
しばらくの間迷ったプリンは書き置きを残し、意を決して少女の口の中に飛び込みました。
少女はそれからみるみるうちに回復しました。彼女は、プリンを食べてしまったことに気づき、驚き悲しみました。でもそのとき、プリンからの書き置きを見つけたのです。
「これからはずっとお腹の中で一緒だから、悲しまないでね」
書き置きを読んだ少女は、涙を流しながらもニッコリと笑いました。
今でも、少女の家の跡地には嫌われプリンのお墓が建っているそうです。そのお墓には『かつて国中に嫌われて、食後国中に愛されたプリン。ここに眠る』と刻まれているそうです。