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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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217.一枚岩じゃない人々



 20XX年、日本をある人種が支配した。甘党と呼ばれる人々である。

 甘党の首魁は直ちに国会を動かし、次々に甘党のための法律を制定させていく。ポテトチップスにはすべてチョコがかけられる。食卓に並ぶおかずは、大学芋、かぼちゃの煮つけ、ニンジンのきんぴら。玉子焼きもしょっぱい味付けなど一切許されない。売っている飲み物はジュースがメインになり、数少ないコーヒーやお茶には糖分がたっぷり加えられるようになった。

「くそっ! こんなんで酔っぱらえるかってんだ!」
辛党の重鎮、梶原は飲み干した杯を乱暴に叩きつけた。傍らに置かれているのは英字チョコレート。
「だめですよ、そんなこと言っちゃ。甘党一派に粛清されますよ」
同じく辛党の佐々木がなだめつつ、包みを開いてチョコを口に放り込む。
「だが、こんなガキのおやつみてぇな甘ったるいもんじゃ、飲んだ気にならんわ」
「気持ひはわかひまふへども……」
チョコを頬張りつつ相槌を打つ佐々木の声も、決して明るくない。やはり彼も、刺身や塩辛を肴にグッと杯を呷りたいのだ。
「何か、良い手がないもんか……」
おつまみ抜きで飲み過ぎて、明らかに悪酔いしている梶原が嘆く。
「今は時節が悪いだけです。いずれまたいい星周りになりますよ」
梶原を慰める佐々木。だが実は、彼は周到に甘党を打倒する策を練り、その種を蒔いていたのだった。

 数日後。突如として甘党派の一部が反乱を起こした。彼らは「つぶあん派」を標榜し、「こしあん派」を擁する現在の甘党は、甘党の本流ではなく傍流であると声明を出して非難したのである。これに、いくつかの派閥が声を上げ行動を共にする。その主だったものは、クッキー派、サイダー派、た○のこの里派等である。だが、いずれも反乱軍に就いた理由は明白だった。それぞれ、ビスケット派、コーラ派、き○この山派との対立が根底にあったからである。しかし二つに分裂した甘党派は、まだ辛うじてその勢力を維持できていた。だがそこから、マカロン派、ラムネ派、ア○フォート派らが第三勢力を立ち上げてしまう。こうして甘党派は大混乱に陥り、短期間で瓦解していったのである。

「佐々木、君がつぶあん派を扇動したんだな」
塩気を目一杯きかせた枝豆を口に入れながら、梶原は問いかける。
「ええ、でもこんなに上手くいくとは思いませんでした。せいぜい反乱の一つも起きればいいかなと。でも思ったより、あちらも一枚岩じゃなかったようです」
塩だれの焼き鳥を串から離しながら、佐々木が答える。それを受け、梶原が神妙な顔で言う。
「だが、油断は禁物だな」
「と、言いますと?」
佐々木の問いに、梶原は遠い目をして言った。
「幾多の香辛料、沢山の調味料、無数のタレ……。一枚岩じゃないのは我々も同じさ。いつ同じ目に遭ったっておかしくないってことだ」


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔