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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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218.待ってる



 ん? いきなりなんだよ。
「おまえ、やる気あるのか!」
なんてメッセージ送ってきて? ちゃんとギルドメンバーの一員として、一緒に戦おうとしてるじゃねえか。

「そうじゃない! そのデッキは何なんだ?」って? 別に人のデッキに、ケチをつけることはないだろう? これが、俺の一番戦いやすいデッキなんだから仕方ない。それとも何だ? ここのギルドは、SSRだけのデッキじゃないと、追い出される決まりでもあるのかい? ギルドの説明には、そんな注意書きはなかったようだけどな。

「それにしたって、そんなNとRだけのカスデッキじゃ、勝てるもんも勝てないだろ」だと? まずな、その「カス」という言い方やめろ。ゲーム始めたての頃なら十二分に使えるし、そうでなくともやり方次第で立ち回れるんだから。

 それにな、このデッキには思い入れがあるんだよ。

 俺が、まだまだこのゲームを始めたばかりのころ、とある有名ギルドに加入したんだ。その頃の俺は、ギルドはおろかストーリーやイベントの仕組みすら、理解していなかった。当然俺のせいで、迷惑がかかる、負けが込む、メンバーが離れていく。いわゆる、負の連鎖に陥っちまったんだ。
 だがな、それでもそのギルドのリーダーは、俺をかばってくれた。いまだにその名を覚えている者も多いそのリーダーは、「今は負けても経験を積む時だ。いつかこいつがいて良かったと思うときが来るから」ってね。そうやって次々とメンバーが離れていく中、俺は全力で戦い続けた。そうしてある日、俺の活躍で対戦に勝利することができたんだ。その時リーダーは大喜びで、俺の活躍を褒めてくれた。そして「おまえは今後もそのデッキで行け。絶対にすごいやつになるから」と言ってくれたんだ。
 だが、勝利の美酒に酔っている時間は、それほど長くなかった。なぜかはわからんが、しばらくしてリーダーが全くログインしなくなっちまったんだ。ギルドの掲示板に、「ちょっと、待ってて」という言葉だけ残してな。

 リーダーが来なくなったギルドは、さすがに求心力を失った。結局残ったメンバーで話し合って、ギルドは一時凍結することにした。そして俺は、このギルドにやってきたというわけさ。
 だからな、このデッキで戦うのは、俺の尊敬するリーダーの言いつけでもあるんだ。これだけは、絶対に譲ることができないんだ。

 なに? 「でも、そのデッキで結果を出せなかったら、即クビにするからな」だって? いいとも、望むところだ。だがな、こっちだってこのギルドは腰かけだ。あの人が戻ってきたら、引き止められたって出ていくからな。

 さあ、そろそろ対戦の時間だな。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔