火曜日の幻想譚 Ⅱ
229.プラモデルの教訓
プラモデルが完成しない。
「よし、できた」
と思って棚に飾り、箱を捨てようとすると中にパーツが入っている。しぶしぶそのパーツを切り離し、ヤスリをかけて、組んで、色を塗って、くっつける。今度こそと思って棚に飾り、箱を捨てようとすると、やっぱりパーツが入っているのだ。
もうわけがわからない。早く完成させたいのに。
ジリジリする気持ちで箱を開ける。案の定、新しいパーツがそこにある。試しに箱のふたを空けておく。完成したと思って目を離したすきに、やっぱりパーツが箱の中に存在しているのだ。
部品が加わっていくプラモデルはどんどん大きく、格好良くなっていく。それはうれしいが、何事もきっちりやり遂げたい性格の私にはもう苦行だ。正直、もう諦めたくなってきた。
どうしようかと考え込んでいると、息子ががらりと部屋の扉を開ける。
「いいなあ。お父さんはいつもプラモデル作ってて。僕、すぐ作り終わっちゃうよ」
「いや、作りたくて作っているんじゃないんだ。止めたくても止められないんだよ」
すると息子は、驚くべきことを言い放った。
「ずっとプラモデルを作っていられるなんて、そんな楽しいことないじゃん」
……そうか、そうだよな。小さい頃、なけなしの小遣いを握りしめ、近所のおもちゃ屋に走っていったことを思い出す。ろくに塗装もできず接着剤しかない環境で、母親に臭いからとベランダに追いやられても、夢中になって組み立てていたあの頃。
「よし。初心に帰って、この終わらないプラモデルをとことんまで楽しんでやろう」
新たに増えたパーツを楽しみながら丁寧に作り上げ、新たにくっつける。さて次は、と思い箱を開けてみたら、そこに新たなパーツはなかった。
「楽しいことが延々続くなんて、やっぱりそんな思い通りにならないか」
なぜか予想できていたこの人生の普遍の真理に、私は曖昧な笑いで応えた。