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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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228.6年2組



 フリマのアプリで、こんなものが売りに出されていた。
 平成13年度卒業生、湯ヶ崎市立浜島小学校6年2組のタイムカプセルを掘る権利。

 平成13年といえば、2001年。ちょうど20年前だ。20年後に掘り出そうなんて約束をおそらくしたのだろうが、中心人物が何らかの理由で来れなくて、このように売りに出されているのだろう。
 他人のタイムカプセルをのぞき見ることを興味深いと取るか、卑しい行動だと思うか、はたまた興味がわかないかは人それぞれだが、少なくとも私は大いに興味をそそられた。湯ヶ崎市はそれほど遠くないし、1クラスに相当する生徒たちがどんなものを埋めたのか、少し手間を掛けて見てみるのも悪くないと思ったのだ。私は手早く入金処理を済ませて、その権利を買い取った。

 深夜。車で浜島小にたどり着き、金網を乗りこえ、校庭の指定の場所で穴を掘る。権利があるとは言え、真っ昼間に穴を掘るのはどうにも居心地が悪い。そのため夜を待っての行動となった。権利を買い取った後に送られてきた資料の通り、球形のカプセル状のものが土中から顔を出す。傷つけぬように周囲を掘り、周到に運び出す。暗い中、そーっとふたを取り外してみると、何と中身は空だった。しまった、だまされたかと思い、天を仰ぐと、ふたの裏に一枚の紙切れが貼ってあり、そこには以下のような言葉が書かれていた。


  20年後、このタイムカプセルを掘り出した人へ。

  私たち、6年2組の生徒は、全員、担任の三田先生が大嫌いでした。
  むだに熱血で、うっとうしくて、暴力を振るう、最低な教師でした。
  6年生の1年間、私たちはいい思い出なんて全くありませんでした。
  このタイムカプセルも三田先生の発案で、無理にさせられています。
  思い出を形にして封じ込めよう、そんな、きれいごとをいうのです。
  でも、私たちは、このクラスに残したい思い出なんか、ありません。
  なので、私たちはこっそり話し合い、いい方法はないか考えました。
  その結果、思い出を残さぬために、何も入れないことにしたのです。

  お手数ですが、このタイムカプセルを掘り出した方にお願いします。
  以下のことがらを、やがて、やってくる三田先生に問うてください。

  私たちが、このタイムカプセルに何一つ入れなかった、その意図を。
  私たちが、三田先生との思い出を残すことを拒否した、その理由を。
  私たちの手で、タイムカプセルを掘り起こさなかった、その意味を。

  6年2組 一同


 ちょうど紙切れを読み終えたころ、1人の男がやってきた。男は非通知の電話で、タイムカプセルを掘り出すから来てくれと言われたと言い、当時の担任の三田だと名乗った。今はこの学校の校長をしているらしい。私はここに来たいきさつを話し、先ほどの紙切れを見せる。

 三田校長の顔は一瞬で凍りついた。

 後日、聞いたところによると、自身の教育方針に相当自信を持っていたらしい三田校長は、この一件ですっかり自信をなくしてしまい、校長の座を降りることになったそうだ。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔