火曜日の幻想譚 Ⅱ
125.腰と草花
腰を痛めてしまった。
動くたびに激痛が走るので、仕方なく布団に寝たきりでいると、どうも世界から置いていかれた気分になる。みんなは目まぐるしく動いているのに、自分だけが床の中。それもやむなしと言い聞かせ、近くに置いてあった書物を手に取ると、それは植物図鑑だった。
「ふむふむ」
確か昔、何かの資料として購入したんだっけと思い出しながら、ペラペラページをめくる。そうしているうちに、だんだん、今の境遇は植物のようだなと思いはじめた。なぜって、下半身が動けなくて移動できないのだ、草花のようなものだろう。もっとも彼らは、その場で光合成ができるので、置いてけぼり感はないかもしれぬが。
「でもきっと、あいつらも自由に動きたいって、思ってるんだろうなあ」
思わず、彼ら植物たちに思いをはせてしまう。もし動けるようになったら、彼らもきっと日当たりのいい場所の取り合いとかをするんだろう。そういった場所を高値で売りつける輩も出てくるだろうな。肥料の仲介業者とかも発生するぞ……。
そんな下らないことを考えていると、友人が見舞いに来てくれた。いい話し相手ができたとばかりに、私は今の話をする。
「きみ、そりゃあ違うよ」
友人は私の話を終わりまで聞いた後、一言、付け加えた。
「あいつら、花が生殖器なんだから、下半身丸出しで上半身が動けないんだよ」