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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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128.膿



 先日、つめを切った。そうしたら、左手の中指の爪をちょっと切りすぎたらしく、膿ができていた。
「…………」
指先の痛む中、すっと無言で手を光にかざしてみる。短くなったつめの左脇が、毒々しいほどぱんぱんに膨らみ、そのむちむちの中を汚い膿が横たわっているのがとてもよく分かる。

 眺めていてもきりがない。痛んで不便だし、膿、出しちゃおう、そう思い、針をライターで熱する。そしてティッシュを用意し、むちむちにずぶりとやる直前、脳裏に奇妙な考えがほとばしる。

 本当に、このむちむちの中は、膿なのだろうか?


 邪念を振り払って針を突き入れる。次の瞬間、クモがわらわらとそこからはい出てきた。さらに中からムカデが顔を出し、わがもの顔で指先をはい回る。突き破ったむちむちの奥にはウジがわき、ずちゅずちゅと奇妙な音でテリトリーを広げている。それでも飽き足らず、傷口からどんどんと虫はあふれ出てくる。ウジに肉を食い荒らされ、中指の感覚はすでにない。そんな中で、うじゃうじゃと虫は中指をはい回る。いつの間にか、中指は根本まで黒く変色し、朽木のようになっていた。そんな沈没船から逃げるように、続々と虫は傷口から飛び出してくる。

 ふいに感じるボキリという感覚。ボロボロの中指が、足元に落ちていた。


 ……膿を出しながら、そんなことを妄想していた。やがて、膿が出きったのか、指先の痛みは収まる。そして第二の楽しみとばかりに、ティッシュに染み込んだ膿のにおいを嗅いで、恍惚の表情をした。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔