火曜日の幻想譚 Ⅱ
134.運搬者
え? インタビューをさせてくれだって?
ああ、僕なんかでよければ、いいけど。でも、そんなに特別なことはしてないからなあ。
うん。僕らの仕事の説明だね。僕らはね、眠りを運んでいるんだ。世界中の生きとし生けるものに睡眠という休息を届ける、それが僕たちの仕事なんだよ。
どうやって運んでいるのかって?
目に見えない速さで運んでいるよ。まあ実際、君ら人間の目に見えないんだけど。唯一人間がわかるのは、あくびってよくうつったりするだろう? あれは僕たちが通った証みたいなもんだね。
いや、みんな平等に睡眠を配っているわけじゃないよ。やっぱり多く必要な人には多めに、少なくてもいい人には少なめにしているね。
そう。人間だけと考えると分かりにくいけど、動物も合わせると分かりやすくなるよね。ナマケモノさんなんかはたくさんの睡眠時間をあげてるし、反対にきりんさんはほとんどあげてないからね。
えーと。実は、不眠症の人に眠りを届けたり、反対に寝すぎる人に眠りを届けないなんてのは難しくて。睡眠時間は僕らが決めてるわけじゃなくて、僕らが仕えている眠りの王様が決めていることだから。
そのおかげで、結構嫌なこともあるよ。例えば、大事な授業や試験を受けている最中にも眠りを届けなくちゃならない。昼食後の午後の仕事の最中にも届けなくっちゃあいけないんだ。いわゆる「寝落ち」なんてのは、だいたい僕らの仕業だからね。申し訳なく思うことも多々あるよ。でも、こちらも仕事なんだよね。
反対に楽しいことは? うーん。やっぱり、犬や猫、赤ん坊の寝顔を見るのは癒やされるよねえ。かわいいもんねえ。いや、大人の寝顔がダメってわけじゃないんだけどさ。やっぱり大人はいろいろとしがらみが多くて、悪夢を見ている人も多いから。自分の眠りで苦しんでいる人を見るのは、やっぱり気分良くないよね。
最後に、悩みはないかって?
あぁ、睡眠を配ることに忙しすぎて、僕らの睡眠時間が削られていることが目下の悩みだね。