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火曜日の幻想譚 Ⅱ

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135.先生の正体



「じゃあ、この問題わかるひとー」
「はーい」
「高橋くん」
「先生、おしっこ」
「高橋くん、先生はおしっこじゃありませんよ」
「……」
「失礼ですから、ちゃんと言い直しなさい」
「ほんとに、そうですか?」
「え?」
「本当に先生は、おしっこじゃないと言い切れるのですか?」
「当たり前です。何を言ってるんですか、先生はおしっこなんかじゃありませんよ」
「本当に先生は、おしっこじゃないんですね」
「先生は、れっきとした人間です」
「でも、人間の体重の6割から8割は水分ですよね」
「それがどうかしたんですか」
「人間が体内から水分を排出する手段は、主として排尿だと言われています。これは結果として、体中におしっこが詰まっている、そういうことになるんじゃないですか?」
「一体あなたは、何を言ってるんですか?」
「もちろんこの場合、先生だけではなくて全人類がおしっこということになりますが、とりもなおさず、人間である先生もおしっこである、そう言えるのではないでしょうか」
「……いえ、そうではありませんね」
「違いますか」
「正確には、人間はおしっこが入った入れ物ではないでしょうか。少なくとも人間それ自体がおしっこではないでしょう」
「なるほど、それは一理あるかもしれません」
「そうです。やはり先生はおしっこではありません」
「いえ、そんなことはないと思いますよ」
「なぜですか。人間はおしっこの入った入れ物でしょう、まさか先生が人間ではないとでも言うのですか?」
「いいえ。そうではありません」
「それならば、先生はおしっこではないはずです」
「先生は、パスカルをご存じですか」
「知ってますよ。主に哲学者として著名な人物ですね」
「彼の残した言葉に、『人間は考える葦である』というものがあります」
「ええ、ありますね」
「しかし、人間は葦であると本気で思っている人はいないはずです。あくまで比喩表現です」
「確かに、そうですね」
「すなわち、比喩であれば、『人間はおしっこである』という文法も成り立つのではないでしょうか。さらにもう一歩進めれば、『教師、豊川瞳、33才独身はおしっこである』という文章も、間違いではないと思うのです」
「年齢と独身であることは、言う必要ないでしょう」
「例えば僕がこの書き出しで、すばらしい作文を書いたとします。それでも先生は、自身はおしっこではない、というその一点によって、その作文を評価しないというのでしょうか」
「……わかりました。もう先生はおしっこでいいですから、早くトイレに行きなさい」
「ありがとうございます」

「……はぁ、じゃあこの問題、わかる人」
「はーい」
「はい。大滝くん」
「先生、うんこー」


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅱ 作家名:六色塔