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都合のいい記憶

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「そうなんです、この事件の特徴の一つがそこにあった。ストーカーに見られていた古舘は一見何をするか分からないようだったが、本当は心優しい彼女を守れる性格だった。逆に彼女の彼氏を演じていた桜井忠弘は、金に対しての執着はあっても、女性に対しての愛情も、情という情のまったくない人間だったんです。だから、少しややこしい関係に見えたけど、この報告書がそれを解決してくれました。ところどころ抜けているというところがそれを暗示しているんです。しかも、内容をそのまま信じれるように前後の内容を貼り合わせてですね。でも、これに信憑性を感じるのは、あなたのように自分に都合よくしか理解できない人だけではないかと思うんです。僕のように最初から疑ってかかると違ってきますよ。疑ってかかるというのは、まずこの内容を自分で辻褄に合わせてしっかり解読できなければ、疑うこともできません。あなたにはそれができなかった。都合よくしか解釈できなかったことがあなたの疑心暗鬼を生んだのではないでしょうか?」
 彼はうな垂れたままだった。
「これで私の調査報告は終わります」
 と言って、鎌倉は社長室を後にした。
 それから数日ほどして、出版社に警察の公安から捜査が入った。詐欺容疑だというが、それも実に都合のいい詐欺を働いたことで、逆にそこから足が付いたということであった。
 鎌倉はこの公安の立ち入り捜査が近いことを知っていた。そして、そのおかげで自分が安全であることも分かっていた。
 ただ、鎌倉は調査しただけで、これをどこにも公表していない。これも探偵をしていた頃の感覚であろうか、いわゆる守秘義務というものである。
 鎌倉は結局、唯一の小説家として生き残る場所を失った。しかし、その分ある程度まで記憶がよみがえったことで、再度探偵をする気になった。記憶は欠落したままだが、それを分かっていると、戻ってくる記憶もあるようだ。それこそ、
「都合のいい記憶」
 なのかも知れない。
 鎌倉の再度立ち上げた探偵事務所には助手もいた。それはやはり欠落した記憶を持つ桜井忠弘だった。
 彼は余計な記憶、つまり金の亡者だったという意識を失っていた。元々彼も真からの悪人ではなかったということだ。
 彼は中川綾音への贖罪として、探偵の助手を買って出てきた。それを鎌倉は快く受け入れたのだ。
 これからの鎌倉探偵がどんな事件に遭遇し、どのような活躍をするのかまだ検討もつかないが、その報告を読者諸君にできる日が近いことを思い、このお話をおしまいということにいたします。

                   (  完  )



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作品名:都合のいい記憶 作家名:森本晃次