短編集85(過去作品)
とまでは言わないが、それくらいの大きな気持ちでいれば、旅が楽しくなる。そこに出会いを求めるのは悪いことではないはずだ。大きな気持ちでいればこそ、出会える相手がいるのかも知れない。今度の旅では、白い帽子の女性が気になるのもそのためである。
しかも彼女には、どこかであった面影を感じるのだ。それもつい最近。下手をすれば昨日だったような気持ちで、毎日会っているのに気付いていなかったようにさえ感じる。
何とも複雑な心境なのだろう。一度に違う考えがハーモニーを奏でているようだ。
――毎日を繰り返している?
前に友達が言っていた言葉を思い出した。毎日を繰り返すなど、環境が違うからありえないことだと思っていたが、違う環境の下でも、少しでも何かが同じなら繰り返しているように感じることもあるかも知れない。それを感じるか感じないかだけの違いで、皆にあることではないだろうか。
その友達の話していた、一日が終わりすぐにやってくる次の日、その瞬間だけ、前の日に戻っているといっていたが、その感覚もある。その時間だけ、まるで鏡を左右に置いて真ん中に座って見ているような感覚がある。
――まわりを見て感じる無限――
それが鏡の世界には潜在しているのだ。
今回の旅行で、今までの自分が繰り返してきた鏡の中の無限の世界に気付いたような気がする。
前だけしか見ることのできない女性、後ろ姿しか確認できない女性、それぞれに、それぞれの人生があるようだが、総司の中では繋がっている。それを確認しにきたような旅である。
実際に人と出会う。だが、本当に出会ったのかどうなのか分からない人もいただろう。出会ってしまって相手のことを知らなければよかったと思うこともあるはずだ。気持ちが変わってしまうこともあるはずだ。
だが、鏡の中で無限に広がる人がいるとすれば、それは繰り返す中で、徐々に大きくなっていくことだろう。
鏡の中で一方を見ると、一方がその中に小さく写っている。比較対象をいつも考えている総司だからこそ、見えているのだろう。
この旅行は、最初から探していたものを見つけられそうな気がしていた。いや、きっと見つかることだろう。
最初に感じた……、
――海と山――
双方を見比べると、そこには夕焼けがあった。
山の斜面がオレンジ色に染まって見える。海からの照り返しに目を背けると、そこには山肌があった……。
( 完 )
作品名:短編集85(過去作品) 作家名:森本晃次