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はなもあらしも ~垂司編~

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 * * *

 濃紺の空に星が瞬き始めたころ、垂司はそっと自室を抜け出すと、ともえの部屋の前でたちどまった。
 わずか躊躇ったような表情を見せたが、次の瞬間には意を決したように口元を引き締め、いつもの調子の声を出す。

「ともえちゃん?」
「……はい」

 中からともえの返事が返ってくる。その声はやはり元気がない。

「垂司だ。今、いいかな?」
「あ、はいっ」

 ともえの許しを得て垂司は部屋へと足を踏み入れた。
 ともえはとっさに布団から身を起こそうとしたが、それをそっと手で制すと垂司は彼女の足元へと視線を移した。

「痛みは?」
「少し……。すみません、ご心配おかけして」
「いや……」

 それ以上は言葉が出なかった。気丈にふるまうともえを見ていると、今にも抱きすくめたい衝動に駆られるのを堪えるので精一杯だった。

「試合も近いのに……こんな……」

 相手の姿を見ていないとともえは話していたようだったが、恐らくは笠原道場の者だろう。ともえは日輪の為、いやひいては笠原も含めた弓道そのものの為に黙っている事を決心したのに違いない。
 ともえの姿を見てそれを確信した垂司は、そのいじらしさに体の奥が痺れる心地がした。

「垂司さん……?」

 黙ったままの垂司を不思議そうにともえが見つめる。体の奥の痺れは、今にもそのまま脳を浸食しかねない。

「良かった……この、程度で済んで。これ以上何かあったら私は……」
「有難う御座います」

 ともえはそう言うと、にっこりと微笑んだ。
 足はまだ痛むだろう。心は不安で満たされているに違いない。それでも目の前の少女は自分のような男に向って健気に微笑んだ。

 ――――もう、無理だと思った。

 次の瞬間、垂司はともえを抱きすくめていた。