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はなもあらしも ~垂司編~

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「と、こういう事です。あとの事は限流師範にお任せ致します」
「……分かった。本当にすまない事をした。今回の試合は無効として頂きたい」

 そう言うと限流はともえに向って頭を下げた。

「そ、そんなっ! 頭をお上げ下さい! それに試合は無効なんかじゃありません。私は負けたんです、橘さんに」
「あなた……」

 橘がわずかにともえの方へと身を寄せる。

「足が痛いとか調子が悪いとか、そんな事で影響を受けるのは私が弱いからなんです。だからこれからも、もっと精進していきたいと思っています」
「……田舎娘なんて言ってしまってごめんなさい」

 そう言うと、橘はともえに向って頭を下げた。

「えっ!?」

 誇り高い橘の取った行動に、ともえが目を白黒させていると橘の方から手が差し伸べられた。

「あなたの足がちゃんと治ったら、一緒に手合わせしていただけるかしら?」
「はいっ! もちろん」

 ともえと橘が握手を交わすと、道場内に割れんばかりの拍手が起こった。
 そんな中、幸之助が言った。

「……なあ、限流。確かに我らは流派が違う。だが、だからといっていがみ合う必要はないと思うのだ。時代は変わった。武芸で録をもらう時代は終わったんだ……我々が弓道界の為に出来る事を模索して行かなくてはいけないのではないだろうか?」

 ともえは息を飲んで限流の答えを待った。

「どうして私はお前の言葉を素直に聞けなかったのだろうな……伝統を重んじる心は大切だが、それ一辺倒ではいけないという事に、那須さんと橘の成長によってやっと気付かされた。私もまだまだであったな」

 まるで物語を話すように語る限流に、幸之助は深く頷いた。

「幸之助、これからは新しい時代と共に、我ら弓道家も歩もう」
「限流……」
 拍手の中、そっと垂司は道場を後にした。その姿を目にとめると、道真も慌てて後を追った。