はなもあらしも ~垂司編~
「御無沙汰を致しております、限流師範」
「うむ」
限流は垂司をよく知っていた。垂司が神童とされている頃、誰よりもその才を買ってすらいたのだ。
「今さら何をしにきたんです?」
氷江が冷たくそうあしらおうとすると、垂司は不敵に微笑んだ。
「私はこう見えてもね、礼にはちょっとうるさいんだよ」
そう言うと垂司は自分の背後に視線をはせ、小さく顎を上げた。
それを合図に垂司の後ろから、二人の男が姿を現した。
「申し訳ありませんでした!」
「そんなに酷い怪我をさせるつもりはなかったんです!!」
言うが早いかともえに向かって土下座をした二人の男。その顔にともえは見覚えがあった。弓具店からの帰りに襲った男だ。
「あっ」
「これは一体どういう事だ?」
限流が不審そうに眉をひそめる。
「さ、自分達の口で説明して頂こうか」
垂司がそう促すと、二人の男は限流の前で身を震わせながら真実を語った。あの日、あの時、笠原というプライドを持ちだして、ともえを襲ったのは自分達だと。そしてともえは今でも足が治っていないと。
作品名:はなもあらしも ~垂司編~ 作家名:有馬音文