はなもあらしも ~垂司編~
* * *
「待てよ!」
背後からそう呼びとめられ、垂司はゆったりと振り向いた。三歩ほど下がった所で、道真が息を整え立っている。
「……なんで犯人が分かった?」
「私は顔が広いからねぇ。誰も見てないなんて思ったら大間違いというものだよ」
そう答えると、垂司はまた歩きだした。道真も黙ってその後を追う。
しばらく二人は黙ったまま歩き続けた。
「……道真」
やがて沈黙を破るように垂司が口を開く。
「お前は私に何か言いたい事があって来たんだろう」
垂司のその言葉に道真は足を止めた。それに合わせて垂司も立ち止まる。
「あんた……あんたともえの事、どう思ってんだよ!」
道真が叫ぶようにそう吐き捨てると、垂司は寂しそうに微笑んだ。
「どうって?」
「とぼけるな」
歯を噛みしめながら迫る道真に、小さくため息を吐きながらも垂司は正面から向き合う事に決めた。
「……いいだろう。だが愛していると言えばお前は納得するのか?」
「するわけねぇだろ! あんたみたいなやつに……!」
「くくっ、相変わらずだな。道真」
「なにがおかしい!」
「お前もともえちゃんが好きなんだろう」
「ばっ!」
図星を指されて道真は顔が紅潮していくのを感じた。
「でもね、お前にはやらない。最初はね、身を引こうと思ったんだよ。これは本当だ。私は彼女を傷つけるだけだと思ったから」
「その通りじゃねぇか」
「……そう、かもしれないね」
道真は鋭い視線で垂司を睨みつける。
「あんたはいつもそうだ。いつもそうやって俺の大切な物を奪う。そして捨てていくんだ! 弓だってそうじゃないか……! 俺はあんたの弓が好きだった。なのにあんたはそれをあっさりと捨てた。あんたは信用出来ねぇ。あんたみたいなやつには絶対に」
「待って!」
道真が厳しく糾弾したその時、聞きなれた声が制止をかけた。
作品名:はなもあらしも ~垂司編~ 作家名:有馬音文