はなもあらしも ~垂司編~
第七話 心の奥
「うん、もう普通に歩いても大丈夫じゃろう」
「本当ですかっ!? ありがとうございますっ!!」
目をまん丸にさせて、目の前の医者に元気よく頭を下げると、ともえは笑顔で医者まで付き添ってきてくれた美琴を見上げた。
「良かったね、ともえちゃん」
「うん!」
「でも、無理はいかんよ。あんたさんはどうもお転婆なようだ。そちらのお嬢さんみたいに、もう少しおしとやかにすれば、痛みももう酷くならない。という意味じゃよ?」
喜びのあまり立ち上がりそうになったともえは、医者の一言ですぐに浮かしかけた腰を下ろした。
「でも、弓道の試合が近いんです!」
「あと四日後じゃったかの? この辺でも噂になっとるからのう。日輪道場と笠原道場が果たし合いをするって」
「果たし合いじゃありません! きちんとした試合です!」
「まあまあ、どちらも名門の道場じゃて。皆気になるんじゃよ。まあ、試合に出るのは構わんよ。練習もやりすぎなければ普通にやりなさい。その代わり、念のためにあと一週間は湿布と包帯で固定しておくように」
ともえの足に医者がすいすいと器用に湿布と包帯を巻き付けると、ともえは目くじらを立てる。
「一週間って……だから、試合まであと四日しかないんですってば、先生!」
「はあ……このお嬢さんが無茶をしないように、しっかりお目付役を付けてもらってくれんか」
疲れたように医者はそう言って美琴を見た。
「ふふっ。はい、分かりました」
作品名:はなもあらしも ~垂司編~ 作家名:有馬音文