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はなもあらしも ~垂司編~

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 * * *

 医者からの帰り道、ともえは嬉しい反面、まだ思い切り足を動かせない事への不満で複雑な顔をしていた。

「ともえちゃん、さっきから難しい顔をして……すれ違う人たちが皆驚いてるわよ?」
「だって、もうほとんど痛くないのに、試合まで四日しかないのに、包帯取れないから焦るんだもん」
「無理しなければ練習も普通にしていいって先生おっしゃってたじゃない。気持ちは分かるけど、あまり垂司さんに心配かけちゃだめよ」
「垂司さん?」

 突然出てきたその名前に、ともえは思わず小首をかしげた。

「垂司さんね、随分心配してたわ。今日私がともえちゃんに付いていくって言ったら、しっかり見てやってくれって頼んできたのよ?」
「垂司さんが……」

 垂司が自分の事を自分が知らない所でも気遣ってくれていると言う事が分かり、ともえの心は小さくはねた。

「だから練習しすぎたりしちゃダメよ?」
「はぁい」

 まるで姉のようにそう諭す美琴に、ともえは元気に返事した。
 その様子に満足げに微笑むと、美琴はともえの手をそっと握った。

「垂司さんはね、色々言われているけれど、悪い人じゃないわ。そんな事はともえちゃんにはよく分かってると思うけど」
「え?」
「ともえちゃん、垂司さんの事を好いているんでしょう?」
「っ」

 ともえは思わず息を飲んで、そのまま言葉に詰まった。

「隠しても無駄よ。分かるもの、私も女の子だから」
「そっ……か……」

 僅かに俯くと、ともえの手を握る美琴の手に力がこもる。

「垂司さんを好きになるって、とっても大変な事なのかもしれない。私だったら毎日が不安でたまらなくて泣いたり取り乱したりしちゃうかも」

 事実ともえだって随分と泣いたものだ。布団の中で誰にも気付かれないように声を殺して何度涙をこぼしたか分からない。

「でもね、ともえちゃんならきっと大丈夫だと思うの」
「……」
「小さな頃から垂司さんを見てきたけど、最近の垂司さんって弓道をやっていた頃の垂司さんみたいだもの」

 垂司が弓と向き合っていた頃―――ともえはその頃の垂司を知らない。

「でもそれってともえちゃんの影響だと思うの。ともえちゃんが来てから、垂司さん変わったわ」

 もしも自分が垂司の心に何かしらの良い風をもたらせたのだとしたら、ともえはそれだけで十二分に幸せだと思った。