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父の肖像

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4.似た者同士



 子供を持って父という立場になると、やっぱり自分の親父のことを思い出すことがある。いや、別に親父は亡くなってはいない。まだまだ実家でお袋と、元気に暮らしてはいるんだが。

 俺の親父は一言で表すなら、典型的な昭和の親父だった。


 とにかく頑固で、一度こうだと決めたら、天地がひっくり返っても曲げたりしない。まるで何かを撤回することは、死ぬことと同義だと思いこんでいるかのようだった。
 そういうめんどくさい性分なものだから、妻であるお袋や息子の俺は苦労ばかりしていた。随分と理不尽な思いもしたし、そんな親父に食ってかかったことも一度や二度じゃあない。
 それに親父は家族といるときに、ほとんど笑顔を見せることはなかった。実際親父が笑っているのを見た記憶は、全くと言っていいほどない。美味いものを食べてるときだって、お袋や俺が何か話をしているときだって、バラエティ番組を見てるときだって、親父は上座にどっかりと座り込んでニコリともしないのだ。

 じゃあ親父は、人生で1度も笑ったことはないのかって?

 それがお袋いわく、結婚する前はよく笑う人だったそうだ。勤め先でもニコニコと愛想がよく、人当たりのいい人で通っていたなんて話も聞いた。うそみたいな話なのだが、とにかくそういうことらしい。
 しかし安らげる我が家で最愛の家族といるときだけ、ニコリともしないなんてどういう神経だろう。幼少期の俺が抱いた疑問は、自分が父親となった今でも解決していない。


 さて、親父の昭和なエピソードをいくつか挙げてきたが、これから特筆すべきものを話そうと思う。

 令和の世を生きるお父さん方は、趣味というものはお持ちだろうか。みんな一つや二つはあるだろうし、山程あるって人も中にはいるのではないかと思う。別に全くない人を笑いたいわけではないので、そういう人も安心して聞いてほしい。
 どうあれ、この時代に生きる俺たち父親が様々な趣味に興じることができるのは、いろいろと趣味が多様化したからというのが大きいからではないだろうか。

 その一方で、昭和の親父はどうだったか。モーレツ社員なんて言葉もあった時代、仕事が趣味ですなんていうお父さんもさぞかし多かっただろう。
 取りあえず、うちの親父はそんな無趣味な男ではなかった。一つだけではあるが、ご立派な趣味を持っていたんだ。まあ、それも昭和ならではの趣味ではあったけど。

 またまたみんなに問うが、みんなは好きなプロ野球チームはあるだろうか。そう、セ・リーグとパ・リーグに6チームずつ、計12チームある球団のことだ。

 俺の親父はとあるチームのファンで、野球中継を見ながらビールを飲むのが日課だった。
 ペナントレースが開幕している時期は、必ずテレビ中継が始まる時間に帰ってきて、居間で晩酌をしながらテレビを食い入るように見ていたんだ。ビデオ録画なんてなかなかできなかった頃、チャンネルの選択権はとても大事だった。だが我が家のそれは、野球中継以外にはその権利はなかったと言っても過言ではない。俺がアニメを見たがろうが、お袋がドラマの最終回を見たがろうが、重大なニュースが入ろうが、容赦なく親父は野球中継にチャンネルを合わせたんだ。

 親父が好きな球団は、野球をそれほど知らない人間でも知っているであろう、東京にある有名な球団だった。その球団は、理由はよく知らないが、常に勝ち続けて必ず優勝しなければいけなかったらしい。相手がいる勝負である以上、負けることもあるだろうと思うのだが、どうやらそういう論理は通用しなかったようだ。
 親父もこの奇妙な論理に取り憑かれていた男の一人で、その日の試合で負けるとえらく機嫌が悪くなった。さすがに手などを上げることはなかったが、大人しくしていても怒鳴りつけられ、ときにはわけもなく深夜まで説教をさせられたものだった。
 こちらだって見たい番組が見られず気分が良くないのに、加えてこの仕打ちである。お袋は試合の雲行きが怪しいときは、終了前に寝るよう俺によく諭してくれた。そして、布団の中で親父のお袋への怒声を聞きながら、とろとろと眠りについたものだった。


 さて俺は、そんな親父の子として少年時代を生きてきた。そんな俺も、男の子ができて父となった。父となった俺は、小学生に上がった一人息子にこんな思いをさせてはいけないと思っている。そう思っているし、実際にこんなふうにはならないよう気をつけてもいる。だが……。

 最近ハマっているソーシャルゲーム。それでガチャを外すと、自分でもイライラが募るのを感じる。仕事でイベントに割く時間があまり取れないと、不機嫌になっている自分がよく分かる。ガチャなんて当たりはよくて数パーセント。常勝どころか外して当たり前の確率なのに。
 今はまだ負の感情を抑えていられるが、今後誰かに当たらない自信はない。課金も自分の小遣いでやりくりしているが、そっちの点でも正直不安だ。
 自分のためにも子どものためにも止めようかと思うが、なかなか止めることもできない。このままでは幼少期の俺と同じ苦しみを、妻や子供に背負わせてしまうかもしれない。


 ということで久々に実家に帰って、今やすっかり年老いた親父に相談してみようかと思っている。今なら似た者同士、話も合うかもしれないしな。


作品名:父の肖像 作家名:六色塔