はなもあらしも ~颯太編~
「ともえさんは来たばかりだから、知らなくてもおかしくないですよ」
先ほどまでの悪態はどこへやら、そう言って微笑むと美弦は真弓の荷物を持った。
「真弓兄さま、玄関まで見送ります!」
「ありがとう、美弦。そういうわけで、僕は出かけてくるから。美琴ちゃん、また今度ご一緒させてもらってもいいかな?」
「あっ、はい! もちろんです……!」
そう言うと美琴は小さく頷いた。その様子をちらりとともえが伺うと、美琴の頬が朱色に染まっている事に気が付いた。
美琴は真弓を好いている――――直観的にそう感じると、ともえは美琴の助けになりたい、と純粋に思った。
「ぜひご一緒して下さい! 私もう美琴ちゃんの料理の大ファンになっちゃいました!」
「ははは、本当にともえちゃんは元気だね。颯太と一緒に代表に選ばれたから、気合いが入っているのかな?」
「はい、日輪道場の名に恥じない試合をしたいから、頑張ります」
「うん、頑張ってね。それじゃあ、颯太も頑張って」
「はーい」
そう言って微笑むと、真弓と美弦は正門へと向かって行った。二人の姿を見送ると、ともえは美琴を振り向く。
「美弦って、真弓さんを随分慕っているのね」
「ええ、真弓さんは年上で優しい方だもの」
美琴はまるで自分の思いを話すように嬉しそうに言った。それを見てともえも微笑む。
「本当、真弓さんって優しいよね! 大人の男の人って感じ。私と二つしか年違わないのに、大学生だしすごいなあ」
「ともえちゃんも私から見れば大人っぽいし、羨ましいわ」
「えっ!? 私が大人っぽい!?」
生まれて初めて言われた形容詞にともえは驚く。美琴はそれに頷き、
「ね、颯太さん。そう思うでしょう?」
と尋ねた。
一体颯太はどう答えるのだろう。と固唾を飲むと、すっかり食べ終えた颯太が立ち上がりながら笑う。
「大人っぽくはねーな。オレより年上って感じしねえし。どっちかっつったら美琴の方が年上な感じがする」
「ひどっ! 美琴ちゃんは颯太より年下でしょ!?」
少し期待していただけにともえは少しショックを受けた。
「見た目で言うならともえの方が老けてるかな。精神年齢は間違いなく子どもだけどな」
「颯太に言われたくないですう」
「ふふふっ。颯太さんもともえちゃんもすっかり仲良しなのね」
二人のやり取りを見ていた美琴が可愛らしく笑う。ともえは仲良しと言われ、素直に嬉しいと思った。
「ほら、練習戻るぞ!」
ぷいっとこちらから顔を背けた颯太は、足早にその場を去ってしまった。それをともえは慌てて追いかける。
「ちょっと待って! 美琴ちゃん、ご馳走さま。お弁当本当に美味しかった! またゆっくりお話しようね!」
「ええ、是非。練習頑張って!」
美琴の応援に応え、ともえは道場へと走った。
作品名:はなもあらしも ~颯太編~ 作家名:有馬音文