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はなもあらしも ~颯太編~

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「限流師範がきつーい灸を据えてくれるとは思うが、オレはマジではらわた煮えくり返ってんだ。ともえに怪我をさせたんだ。落とし前つけてもらおうか? あ? 嫁入り前の女を傷物にするとは、男の風上にもおけないだろ?」
「すすすっ、すみませんっ!!」
「ちょっと颯太! もういいんだってば!」

 今にも殴り掛かりそうな颯太に、ともえは幸之助に助けを求める。が、幸之助は黙って事の成り行きを見守っていた。

「颯太さん」

 二人の前に出てきて正座をしたのは橘と氷江だった。

「今回の事、無かった事にとは言わない。彼らなりに笠原道場の事を真剣に考えての行動だったんだ。確かに許されない事だが、どうか、許してやって欲しい」

 氷江が最初に頭を下げる。

「颯太さん。私からもお願い致します。ともえさんを怪我させてしまった事、絶対にあってはならない事です……必ず彼らには罪の償いをさせます。日を改めてともえさんにも謝罪に行かせます。どうか、お許し下さい」

 あの橘も頭を下げた。
 自尊心の高い氷江と橘が仲間を助けるために頭を下げた事で、颯太の怒りはどうやら治まったらしい。ついと立ち上がり、限流に深く頭を下げた。

「師範、オレはもう何も言いません。でも、絶対にともえに怪我をさせたこいつらをただで許さないでください」
「もういいってば!!」
「だってともえ……」
「氷江君も橘さんも、後ろの二人ももう頭を上げてください。本当にもういいんです。だって試合に勝ったんですから。ね、幸之助師範」

 そこでようやく幸之助も強ばった顔をほぐし、口を開いた。

「済んでしまった事は仕方が無い本当に反省しているのなら、ともえさんの言うように許してやっていいんじゃないか、颯太」
「―――幸之助おじさんとともえがそう言うなら」

 やっと颯太も納得したらしく、強く握っていた拳を解いた。
 それを確認し、幸之助が限流の前に進み出る。

「……なあ、限流。確かに我らは流派が違う。だが、だからといっていがみ合う必要はないと思うのだ。時代は変わった。武芸で録をもらう時代は終わったんだ……我々が弓道界の為に出来る事を模索して行かなくてはいけないのではないだろうか?」

 ともえは息を飲んで限流の答えを待った。

「どうして私はお前の言葉を素直に聞けなかったのだろうな……伝統を重んじる心は大切だが、それ一辺倒ではいけないと、こんな事になるまで気付かなかったとは……まだまだ修行が足りないという事か」

 まるで物語を話すように語る限流に、誰もが意識を傾けていた。

「幸之助、これからは新しい時代と共に、我ら弓道家も歩もう」
「限流……そうだ、共に歩もう」

 そして大きな拍手が道場の中一杯に溢れ、ともえと颯太は顔を見合わせて笑った。

 勝った。
 勝ったのだ―――