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はなもあらしも ~美弦編~

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「あなた達、もしかして……?」
「本当にすみませんでした! あんなに強く殴るつもりはなかったんです!」
「やっぱり……」

 弓具店からの帰りにともえを襲った二人だ。だが急に謝られても、ともえはどう対処していいのか分からない。困っていると、美弦がともえの一歩前へと足を踏み出した。

「限流師範はその様子ですとまだご存じなかったようなので、僕から説明致します。二週間ほど前、ともえは何者かに襲われ足を負傷しました。その時の暴漢が彼らです」
「お前達!」
「お待ちください、師範。話はまだ続きます」
「う……うむ」

 立ちあがろうとした師範を美弦はそう制すと、再び橘へと視線を真っ直ぐ向けた。

「彼等はいわば橘さんの信奉者といったところでしょう。僕だってこの笠原道場には幼い頃から何度か来ていますからね。ここの道場の人間で誰がそんな事をしそうなものか、予想もつくというものです。だから僕は橘さんに言ってあげたんですよ、随分とこちらを気にされていらっしゃるようでしたから。安心して下さい、ともえの足はもう大丈夫ですよって」

 そこまで言うと一度言葉を切って、美弦は不敵ににっと笑った。

「だけど橘さんはそんな事命じて無かった。誇り高い橘さんの事、正々堂々と戦って勝つのが当たり前と思われている事でしょう。だから、動揺した。僕の一言に橘さん、あなたは見透かされてると思ったんだ」
「「橘さん、すみませんっ!!」」

 二人の男はそう言うとより一層頭を擦りつけたが、橘は二人に見向きもしなかった。

「彼らは‘僕のともえ’を傷付けたんです。師範からもこれからきつく灸を据えられる事と思いますが、僕からも一言いいですか?」

 美弦が凛とした声でそう言うと、限流は拳を握り締めたまま黙って頷いた。
 美弦はともえの前で萎縮する二人に顔を寄せ、背筋も凍る程の冷たい視線を二人に向けると、

「いい? 君達のした事は結果として橘さんを傷つけたんだ。因果応報、よく覚えておくんだね。それから――もしもまたともえに何かしたらその時は、僕は何をするか分からないよ。二度と弓を引けなくなるかも? なーんて」

 そう言ってくすくすと笑った。

「ひいっ! すみません、もう二度としませんっ!」
「本当に許してくださいい!!」

 よほど恐ろしかったのか、二人は美弦から視線を外し小さくふるえつづけた。
 重い空気の中、口火を切ったのは笠原限流だった。

「幸之助……試合はお前達の勝ちだ。そして本当にすまない事をした。彼らにしかるべき処分を与える」
「ああ……しかしなあ、限流。確かに我らは流派が違う。だが、だからといっていがみ合う必要はないと思うのだ。時代は変わった。武芸で録をもらう時代は終わったんだ……我々が弓道界の為に出来る事を模索して行かなくてはいけないのではないだろうか?」

 ともえは息を飲んで限流の答えを待った。

「どうして私はお前の言葉を素直に聞けなかったのだろうな……雛菊にも辛い思いをさせてしまった。誇りを持つ事は大切な事だ。だがいき過ぎた誇りは自身をもきずつける。何故このような事になるまで、気付かなかったのだろうか」

 まるで物語を話すように語る限流に、誰もが意識を傾けていた。

「幸之助、これからは新しい時代と共に、我ら弓道家も歩もう」
「限流……」

 二人はしっかりと手を握り合い、固い握手を交わした。
 幸之助は安堵したように微笑むと、美弦とともえに向き直った。

「さて、試合に勝った報告に、我が道場に帰るとするか」

 幸之助の一言で、ともえはやっと現実に戻る事が出来た。

 そうだ、勝ったのだ……

「はいっ!」