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はなもあらしも ~美弦編~

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「そんな、まさか……」
「何かの間違いだ! さっき日輪の者が雛菊さんに何か言ったからだ!」
「貴様一体何をしたんだっ!?」

 振り返ると、笠原道場の門下生達が今にも美弦に掴み掛かりそうになっていた。

「どっ、どうしたんですかっ!?」

 慌ててともえが美弦に駆け寄ろうとしたその時だった。

「お前達いい加減にしないかあっ!!」

 笠原限流の一喝に、一瞬で道場内は静まり返る。幸之助も立ち上がり、美弦と橘へ歩み寄った。

「先ほど美弦が橘君に言った言葉、ここで皆に話せるな?」
「はい」

 幸之助に促され、美弦はおくびもせず昂然と答えた。

「橘さんがあまりにもこちらを心配そうにご覧になられていたので、ともえの足はもう大丈夫ですよ、とお伝えしただけです」
「―――え? そんな、こと?」

 ともえはきょとんと目を開けて美弦と橘を見る。橘はまだ顔を青くしている。

「雛菊、本当か?」

 限流に尋ねられ、橘は震えながら小さく頷いた。

「何故? そんな事の何が君を動揺させたっていうんだ! 橘君!?」

 驚いているのは全員同じだが、納得出来ない氷江が橘に食って掛かる。

「……私が命を下したわけではありませんのよっ。だってそんな……そんな卑劣な事はわたくしの誇りを傷つける事でしかないのですからっ……なのに……なのにっ。こんな事……信じたくなかった。何かの間違いだって……でも……っ」

 独り言のように言葉を繰りながら涙目になる橘に、しかし美弦は容赦しなかった。

「ふぅん。だからそんな視線を向けて下さっているのだとばかり思ってしまいましたよ、橘さん」
「っ!」

 橘はわなわなと震えながら涙をこらえ、唇を噛みしめている。

「一体どういう事だ?」

 限流が不審そうに眉根を寄せたその時、ダンッという荒々しい音が道場を支配した。反射的に振り返ると、ともえ達の背後で二人の若い男が額を床にこすりつけていた。

「「すみませんでしたあっ!!」」

 二人の若い男は身を震わせんばかりに声を張り上げている。その様子にともえは思わずハッとした。