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はなもあらしも ~美弦編~

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 * * *

 日輪道場からは、幸之助と代表である美弦とともえ。そして試合の公正を期すため、立会人として他の道場から選ばれた師範が2名が共に笠原道場へと向かった。
 相変わらず重厚な雰囲気の笠原道場の門の前までやって来ると、待っていましたと言わんばかりに門扉が開いた。

「ようこそ、おいでくださいました。日輪道場の皆さん。今日は正々堂々、互いの力を出し切って良い試合をしましょう」

 そう言ったのは氷江だ。

「そちらの田舎娘さんは、少しはご精進されたのかしら? 以前とあまり代わり映え致しませんけれど」

 厭味たらしく口の端をあげた橘の視線が、わずかにともえの足を捉えた気がした。不審に思ったが、ともえは静かに頭をさげた。

「どうぞよろしくお願い致します。精進のほどは、試合でご覧頂きたいと思いますので、楽しみにしていてください」

 下げた頭を戻した時、ともえの瞳はまっすぐ橘の瞳を捕らえていた。
 もう、試合は始まっているのだ。ここで暴言やくだらない所作で惑わされ、心を乱されてはいけない。
 すうっと息を吸い込み、ともえは集中する。頭の中で何度も何度も描いた、自分が道場に立って矢を射る姿。その先の未来は勝利なのだと、さらにともえは気持ちを強くしたのだった。
 以前訪れた時は何も分からず、まさに田舎道場の呈を露にしていただろう。だが、ともえは日輪道場で成長した。
 隣りを歩く美弦と共に、負けられない戦いの中に身を置くことによって、そして闇討ちという相手の卑怯な手段によって、ともえはただの田舎娘から成長したのだ。
 そっと美弦の暖かい手がともえの手に触れる。

「眉間に皺寄ってるぞ。大丈夫か? いい? ともえは一人じゃない。僕が側にいる」

 そんな何気ない一言に、ともえは自分がかなり緊張していた事に気付く。

「う、うんっ」

 ほうっと肩から力が抜け、ともえは美弦と顔を見合わせて微笑み合った。

「美弦、ともえさん」

 弓道場の前まで来ると、幸之助が二人を振り返る。そして二人を交互に見つめ、静かに笑った。

「今日まで短い期間だったが、二人ともよく精進した。特にともえさん。君の頑張りは家の者全員に良い刺激を与えてくれた。感謝しているよ」
「そんな、私はただ必死だっただけです」

 はにかむともえに、幸之助は頷く。

「美弦、お前もともえさんと共に実に良く成長した。お前はもう真弓の真似をした弓から抜け出て、自分の弓を身に付けている。自信を持ちなさい。今日の試合、二人とも最後まで自分の持てる最大限を発揮してきなさい」
「「はい!」」

 幸之助は勝てとは言わなかった。ともえはその事に対してさらに燃えた。
 美弦に視線を移すと、美弦もともえを見つめてくれていた。
 小さく頷きあうと、二人は同時にゆっくりと道場へと足を踏み入れた。