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はなもあらしも ~美弦編~

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第八話 決着


 美弦の手紙に心を救われた夜から三日後の早朝。
 限られた短い期間の中、出来る限りのことはやった。
 着物を着て袴の帯をギュッと締め、ともえは髪を後ろで束ねる。
 障子を開けた庭は霞んでいて、今日の試合の行方を予測出来ないようにしているようだ。次に少し足に力を入れる。

「……うん、大丈夫」

 医者の言いつけを守り、美琴や美弦達にも見張られながらなんとか我慢しながら練習をしたおかげで、痛みはもうほとんどない。
 残りの時間は美弦の教えてくれたイメージトレーニングの成果か、驚く程次々スムーズに矢が的へ当たり、あまりの嬉しさに思わず美弦と手を取り合ってはしゃいでしまった程だった。
 いつもの悪戯っぽい笑みではなく、心の底から声を上げて喜ぶ美弦に、ともえは体の芯から震えるような喜びを感じた。
 美弦の笑顔に美琴が重なる。美琴もきっとこんな思いを、ずっと真弓に重ねてきたのだろう。真弓の為にと、その一心であんなにも料理が上手くなったのかもしれない。私もこの試合が終わったら、少しは料理をしてみようか。その時は勿論、美琴に教えを請うつもりだ。
 そんな事を無意識に思った事にともえは驚いた。笠原との因縁の決着が控えていると言うその時に、こんなのんびりした事を考えるだなんて。
 それとも――それとも恋とは、そういうものなのだろうか。ともえはもう自分の気持ちに気付いていた。今まで誰にも向けた事のない感情を、出会ってまだ日も浅いと言うのにこの美弦という少し意地悪な、けれど芯の優しい少年に自分が向けていることに。
 美弦がともえにくれた言葉の一つ一つが、ともえの力に変わっている。そう、強く確信した。 
 部屋の隅に置かれている弓具店の店主から贈り受けた美しい弓をじっと見つめ、ともえは東京に来てからの事をゆっくりとかみしめるように思い返す。
 たった一月程しか経っていないにも関わらず、随分と長い時間を過ごしたように感じる。
 だが今日が終りではない。修行に終りはないのだ。まだ、ここ日輪道場にいたい。美弦と共にさらに上を目ざしたい――そう、心から思うようになっていた。

「ともえー?」

 美弦の声が障子の向こうから届く。

「はーいっ」

 すぐに破顔し、ともえは荷物をすぐにまとめて障子を開けた。

「おはよ。よく寝た? 緊張して眠れなかった〜なんて事はないだろうな?」
「ばっちりだって!」

 朝靄でもはっきりとともえにその愛らしい姿を晒す美弦の笑顔に、元気よく応える。

「お、さすが神経が太いじゃん。で、えっと……足は?」
「それも大丈夫」
「本当に?」
「本当だってば。美弦に嘘は言わないよ」

 ともえがそう言うと心配そうに眉をひそめていた美弦の顔に、安堵の笑みが浮かんだ。

「それじゃあ敵地に乗り込むか」
「うんっ」