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はなもあらしも ~美弦編~

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第七話 心の奥


「うん、もう普通に歩いても大丈夫じゃろう」
「本当ですかっ!? ありがとうございますっ!!」

 目をまん丸にさせて、目の前の医者に元気よく頭を下げると、ともえは笑顔で医者まで付き添ってきてくれた美琴を見上げた。

「良かったね、ともえちゃん」
「うん!」
「でも、無理はいかんよ。あんたさんはどうもお転婆なようだ。そちらのお嬢さんみたいに、もう少しおしとやかにすれば、痛みももう酷くならない。という意味じゃよ?」

 喜びのあまり立ち上がりそうになったともえは、医者の一言ですぐに浮かしかけた腰を下ろした。

「でも、弓道の試合が近いんです!」
「あと四日後じゃったかの? この辺でも噂になっとるからのう。日輪道場と笠原道場が果たし合いをするって」
「果たし合いじゃありません! きちんとした試合です!」
「まあまあ、どちらも名門の道場じゃて。皆気になるんじゃよ。まあ、試合に出るのは構わんよ。練習もやりすぎなければ普通にやりなさい。その代わり、念のためにあと一週間は湿布と包帯で固定しておくように」

 ともえの足に医者がすいすいと器用に湿布と包帯を巻き付けると、ともえは目くじらを立てる。

「一週間って……だから、試合まであと四日しかないんですってば、先生!」
「はあ……このお嬢さんが無茶をしないように、しっかりお目付役を付けてもらってくれんか」

 疲れたように医者はそう言って美琴を見た。

「ふふっ。はい、分かりました」


 * * *

 医者からの帰り道、ともえは嬉しい反面、まだ思い切り足を動かせない事への不満で複雑な顔をしていた。

「ともえちゃん、さっきから難しい顔をして……すれ違う人たちが皆驚いてるわよ?」
「だって、もうほとんど痛くないのに、試合まで四日しかないのに、包帯取れないから焦るんだもん」
「無理しなければ練習も普通にしていいって先生おっしゃってたじゃない。気持ちは分かるけど、美弦もともえちゃんの足が治る事が一番だって言ってたし、焦っちゃ駄目よ」

 美琴にそう言われ、ともえはふと美弦の顔を思い浮かべた。
 少しばかり素直じゃないけど、いつもともえをちゃんと見てくれている美弦。

「そう……だよね」
「そうよ」

 美琴はそう言うと、ふいにふふっと小さく笑った。

「どうしたの? 美琴ちゃん」
「私ね、ともえちゃんと美弦が一緒になってくれたらなぁって思ってる」
「えぇっ!?」

 急にそんな事を言われたものだから、ともえは思わず立ち止まってしまった。
 そんなともえを優しげに見つめて、美琴もその場で歩みを止める。
 往来の喧騒が嘘のように耳に入ってこない。何か言わなくちゃ―――そう思うともえはだが、歩きだすことすら出来なかった。完全に動揺してしまったのだ。

「ともえちゃん」

 美琴は澄んだ声で名前を呼ぶと、ともえの手を取り歩きだした。つられるような形でともえの足も動き出す。

「私ね、ともえちゃんの事が好きなの。だから、ともえちゃんには幸せになってほしい」
「私……には……?」
「うん。私は……無理だから」
「無理?」

 ともえがそう尋ねると、美琴はにっこりと微笑んでともえの顔を覗き込んだ。

「私ね、真弓さんが好きなの――ってともえちゃんはもう気付いてた……よね?」
「う、うん」

 ともえはぎこちなく頷いた。なんと答えていいものか分からなかったのだ。