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はなもあらしも ~美弦編~

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「ふふっ。私ね、真弓さんの事がもうずぅっと前から好きなの。でも」
「でも?」
「でもね、日輪家は従兄弟同士の結婚は認めていないの」
「どうして?」

 美琴は瞳に寂しげな色をたたえて、遠く彼方へと視線を馳せた。小さくふぅっと息を吐くと、愛らしい唇を開く。

「武芸の道は師匠から弟子へと受け継がれて行くものでしょう? 才能のある幼い子どもを引き取って、自分の跡取りにする事だってあるわ。血ではなく、実力が一番の世界なの……ともえちゃんなら分かるでしょう?」

 静かに頷いた。
 そう、剣術にしろ弓術にしろ、こと武芸に関しては血族の繋がりよりもその流派をいかにしてさらに高みへあげるかが一門の課題である。我が子に才能がなければ、免許皆伝は血筋に関係無く渡される。
 ともえの父にしろ、幸之助や笠原限流にしろ、元々の流派は違っても、一時期同じ師範に師事したのだ。そこでさらに己の技術を磨くため、散り散りになってもただただ強くなるために鍛錬を積み重ねてきたのだ。

「真弓さんは、私にとっても美弦にとっても憧れの人。だけど、憧れで終わらせなきゃいけない人なの」
「美琴ちゃん……」

 美琴が真弓に好意を寄せている事は知っていたし、応援したいと思っていた。
 なのに、それは叶わないという。

「だからね、私……ともえちゃんには好きな人と一緒になって幸せになって欲しいの」

 好きな人――その言葉にともえの胸がドクンと音を立てる。

「って、美弦じゃ一緒になっても幸せとは言い難いかなぁ……」
「そんな事ない!」

 美琴の言葉を反射的に否定してしまい、ともえは顔を赤らめた。

「ともえちゃんのそういう素直な所に、私も美弦も惹かれるんだと思う」
「美琴ちゃん……ありがとう――――」

 ともえがそう礼を言うと、美琴はまた小さく笑った。
 美琴は優しくて芯の強い女性なんだと、改めてともえは感じた。本当は美琴だって大好きな真弓と一緒になりたいに違いないのだ。それでもともえを応援してくれる美琴を、ともえは友人としてより一層大切にしたいと思った。

「さ、帰りましょう」

 ともえと美琴は手を繋いだまま、再び道場への道を歩み始める。
 美琴のように強い心を、自分も手にしなければと――ともえはそう思った。