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はなもあらしも ~美弦編~

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第六話 休息の時


 ともえがイメージトレーニングを開始してから、さらに五回の日が過ぎた。
 ともえの怪我の治りは思ったよりも遅く、射位に立つ時間も一日二時間ほどしか持てない自分への苛立ちが強くなっていた頃、ともえの部屋を誰かが訪ねてきた。

「ともえ、いるー?」

 美弦だ。
 ともえは咄嗟にだらしなく投げ出していた足を真っ直ぐに直し、返事をする。

「うんっ。いるよ!」

 障子を開けて入ってきた美弦は、いつもと少し違う雰囲気だった。いや、見た目はそのままなのだが、なんというか悪戯をしかけたばかりの子供のような、笑いをこらえるのが大変とでもいいたげな表情なのだ。

「どうかしたの?」

 怪訝そうにともえが尋ねると、美弦は一気に破顔した。

「出かけよう」

 目を細めながらそう言うなり、美弦はサッとともえの手を取る。

「えっ? 今から?」

 練習も終わった夕刻、出歩くには少々遅い時間での誘いにともえが戸惑いを見せると、美弦はさらに強くともえの手を握った。

「寄席に行かない?」
「寄席?」
「そう。本当は美琴が友達と行く予定だったみたいなんだけど、都合が悪くなっちゃって。で、僕に回ってきたんだ。ともえは寄席は嫌い?」
「ううん、そんな事ない。でも、神社でたまにあってる寄席を何度か見たくらいだから……」

 いつの間にか美弦に導かれ、歩き出している事に気付いたともえは驚いた。

「ふぅん。まあ行ってみようよ、楽しいぞ?」
「うん、分かった」

 にこやかに笑いながらともえを外へ外へと導く美弦に、ともえも思わず笑みを浮かべる。もしかしたら怪我の事で落ち込んでいるともえの気を紛らそうとして、美弦はこんな風に誘ってくれたのかもしれない―――ともえはそう考えると、自然に気持ちが高揚していった。