天界での展開(2)
「会ってだな、その下らない歌を本当に作ったのかと訊いた。そしたら、奴め、本当に作ったと言うんだ。だから、その事をあんたに話してだな、お互い気になっている事を少しでも早く解消しようと、まだ話半ばだったけど、奴を待たせて飛んで帰って来たという訳だ。奴め、椀椀椀椀 亦椀椀 亦亦椀椀 亦椀椀 という歌を確かに作ったと自慢げに言ってな、そのまま、まだ俺を待ってるから、ちょいと行って来るから・・じゃあな・・・・」
「おい! もう行く必要など・・ あ~~・・ 一二三院四五六居士の姿が・・消えてしまった・・・」
概ね ほら
「さあ、急いで戻らなきゃな、あの猿顔の奴、きっとイライラしながら待ってるぞ・・」
「お待たせ~、サルくん。」
「一体、いつまで待たせるんだ! こう見えても、おいらは忙しい身なんだ。」
「そうかい。じゃあ、早速どこへ行く?」
「どこへ行くって・・、お前が、まだ何か話す事でもあるのかと思って待っていたんだぞ。」
「話す事は、有る。しかしだな、お前も忙しい身だと言うし、取り敢えず俺はこの天界に来てから日も浅い。だから、この世界のことなど些か見聞の意味も併せて、あんたの忙しさに付き合ってやることにした。」
「勝手に決めるな! ・・というか、お前・・今、『天界に来てから日も浅い』と言ったな? それは、どういう事だ。蜂須賀小六のまた従兄弟なら、少なくともおいらと同じくらいは天界に居る筈だろう。」
「まあ、そうなる。」
「それならば、何も今更、天界を見て廻らなくとも大体の様子は知って居るだろうに。」
「それがだな、俺は、人間界に居た頃の行いが頗る良かった。それで、天界の特別の許しを頂いてだな、すぐに人間界に差し戻されたんだ。そこで、俺は、双六としてではなく、別の人間として生きて、また死んじまってな・・」
「天界に来たという訳か・・」
「うん、そう。」
「そんな芸当が出来るのか? 少なくとも、おいらが聞いている限り、人が死ぬと九回は犬・猫・虫・魚・悪性ウィルスなどになって、その後に人として生まれる、つまり、九死に一生を得る筈だが・・」
「お前、アホか? よく聞け、サル。あのな、まず人が死ぬと何処へ行く?」
「それは、天界の入口だろう。」
「ピンポ~ン、正解で~す。」
「・・」
「では、次にですね、天界に着いて、まず、最初に何をするのでしょう~~か?」
「閻魔様の裁定を受ける。」
「ピンポ~ン、またまた正解で~~す!」
「もうクイズ形式は、要らないから・・」
「俺もこれ以上質問する気は、無いから。その、あんたが2問目で正解した閻魔殿での事だが、双六として一生を終えた俺は、閻魔さんに会った。閻魔さんは、『双六よ、お前は、生前大層品行方正であったことを、まずもって褒めておく。お前の様な罪の少ない人間は、そうそう多くない。そこで、もし・・・もしも じゃな、お前が望むのであれば、これより直ちに、もう一度人間として生まれても良いぞ。天界から再び人間界に行くことを、他界するという。これ、双六、今すぐの他界を望むや否や?』と、いきなり俺に言った。」
「・・にわかに信じられん話じゃ。」
「そうかも知れないが、本当の話なんだ。尚一層、あんたの理解し易い様に、それからの話は、再現ドラマ形式にするから・・
『これ、双六。今すぐの他界を望むや否や?』
『・・・』
『双六、応えんか。』
『折角の仰せだけど、決める前にちょいと訊きたいことが有るんですが・・』
『これっ! 死んで間も無き者が、恐れ多くも閻魔様に対して、返答する前に質問をするとは、まずもって有り得ないこと。身の程を知りなさい!』
『まあまあ待て、第一秘書よ。天界に来たばかりで右も左も分らぬのも無理からぬこと。双六、一体、何を聞きたいと言うのじゃ。』
『俺は、また双六として生まれるのですか?』
『そうとは限らん。第一秘書、次に他界するのは、何処の誰として生まれるのか?』
『はい、閻魔帳他界の項にて調べますので、暫くお待ちください・・・・ 閻魔様、次は、西暦1975年に男として日本国に生まれます。』
『相分かった。双六、聞いての通りじゃ。』
『性癖? 1975人・・? 性癖なら知っておりますが・・なんと、天界では、そういった個人情報の収集などもきっちりと行き届いているのですか・・ というか、思い出しました、俺が生きていた頃の色んな奴等の性癖を・・ウッシッシ・・ あの時、村一番の別嬪と若い連中みんなが狙っていたギンという女・・これが、また見目麗しいだけでなく頭脳明晰と言いますか、いろは48文字は全て書ける、読めるでして、おまけに簡単な足し算などは、紙に書き写して筆算で解く必要などなく、頭の中で計算してですね、すぐに正解を導き出すという優れ者。或る晩、俺は、隣村の居酒屋で飲んだくれて動けなくなった親父様を担いで帰っていたと思って下さい。その折にですね、そのギンという女にバッタリと出遭いまして・・』
『これっ! お前の生前の話などどうでも良い!』
『そうですか? 話は、まだ性癖の処までには程遠いのですが・・、本当に此処で話を止めても良いのですね?』
『う~~ん・・・』
『悩むところを見ると、閻魔さんも、女には格別の思いをお持ちの様で・・』
『そ、その様なことなど無いわ!』
『顔に似合わず、意外に正直な方ですね。まあ、正直でなければ、死人を裁くことなど出来ないでしょ。あなたは、正直も正直。だから、是々非々で柵など微塵も裁定に影響させない見事な仕事が出来る。』
『まあ、それは、お前の言う通りじゃ。妙な忖度などしておったのでは、天界の秩序が保てんからのう。』
『仰せの通りです。まったく素晴らしい!』
『それほどまで褒められるほどの事でもないわ。』
『いやいや、正直であり通すのは、誰にでもは出来る芸当ではありません。が・・、しかしですね、正直であるのと素直であるのとは違う。どうも閻魔さんは、正直と素直を同列に考えていらっしゃる様で・・』
『こ、これっ! いくら場所柄を弁えないと雖も、閻魔様に対してあまりにも失礼千万ですよ!』
『まあ、良いではないか。わしは、人の心を読める。この死人、心に一点の曇りもなく話して居る。つまり、甘言蜜語に依って己の立場などを良き方向に向かわせようとするのではなく、事の良し悪しや正論であるか否かは別として、心底思ったままを口にして居るだけじゃ。それに、このわしを前にして、死んだばかりの分際で率直に思いを述べるなど、未だ嘗て一人も居らなんだ。故に、もう暫くこの死人の言う事を聞いてみたい。』
『はっ! ・・これ、死人の一二三院四五六居士、閻魔様の格別の許しです。もう少しだけ話すのを許します。』