天界での展開(2)
『こりゃ、どうも・・、では、お言葉に甘えて・・ そりゃぁ、其処で髭面の怖~い顔で死んだばかりの奴どもを睨み付けて、お前は地獄行きじゃ。叫喚地獄で、大鍋に投げ込まれグラグラと煮られた後、素揚げされた小魚の様にバリバリと食べられるのを繰り返すのじゃ などと、死んだばかりで気の動転が治まらない者達に言い渡せばですね、大方の死人は、素直に恐れ入るばかりでしょう。だが、俺の様に、正直だが素直じゃない死人も時には居る訳でして、この手の死人は、人の言葉を然程まともに受け取らない。世の中には、そういうちょいとばかり曲がった根性の持ち主も居るのだが、この閻魔殿では、99,9%の死人が、閻魔さん、あんたの裁定を素直に 恐れ入りました~ と聞き従う。残りの0,1%のひねくれ者も、あんたのその顔に恐れをなして 裁定にでもあるが、それ以上にあんたの風貌に対して 恐れ入りました・・ と頭を下げる。まあ、そういう風にですね、来る日も来る日も、みんなが素直に、あるいは素直然としていると、この場で死人を裁いている者と雖も、自然に、気付かないうちに素直になって来るから、俺が、女に関して 格別の思いをお持ちの様で・・ と、言ったすぐ後に、閻魔さん、あんたでさえ、ちょいと狼狽えたリアクションが、つい出てしまった。その狼狽えこそが、心の奥底に在る自分自身でも気付いていない本性だと、決め付けても良いと思うのですよ。』
『なるほどのう・・』
『まあ、正直で素直を美徳とする、この天界では何の心配も要らないが、今後、複雑怪奇になりつつある人間界からの死人に対して、閻魔さん、あんただけでも少々の事には裸の自分を見せない心掛けも必要なのでは?』
『うむ、一応、死人の好意的助言として、今後の裁定作業に活かせるべき点は生かす様に極力努力致す。』
『ところで、さっき話していた性癖の続きなんだけど・・』
『もう、その話はせずとも良い。』
『そうですかぁ・・ 話は、これから核心に入って行くところだったんだけどなぁ・・』
『その話、まったく気にならぬこともないが、もう話さずともよい! ・・西暦とは、西欧の年代の数え方である。これを性癖と聞き間違えたのは、お前が最初じゃ。そして、最後であろうことを願って居る。』
『はい、そっちの方は、いくらでも願って頂きたいのですが、西暦1975年って、一体いつ頃になるのでしょうか?』
『そうじゃな、お前が死人となってから、およそ400年余り後の世じゃ。』
『え~~っ、俺は、人として生まれるのを、400年も待たねばならないというのですか? それは困った・・その400年間、俺は、暇を持て余すことになる。死ぬほど長い、長過ぎる・・』
『その心配には及ばぬ。天界、人間界などをも含めたこの大宇宙は、異空間・異次元・時の流れなど様々な世界が混在して居る。しかも、それぞれの時空が同時進行して居る世界なのじゃ。1975年に生まれると決まったならば、わしの裁定一過、たちどころに生まれることが出来る。』
『そうなんですか。そいつは、良いや。じゃあ、早速ですが、その1975年の世界へ俺を送って下さいよ。』
『相分かった。死人蜂須賀双六改め、一二三院四五六居士、只今より西暦1975年日本国某所に生まれる様に。』
という訳でな、サルよ、俺は、あんたが活躍した世から450年も後の世に生まれてだな、またまた死んでつい最近この天界に来たんだ。」
「・・・にわかに信じられん・・が、その様な事と次第であったのか・・」
「まあ、あんたが、そう言うのも無理はない。だがな、俺が生まれ変わって、人としてもう一度生きた世界の事などは、また追々話してやるから、今のところは、俺と閻魔さんは、虚心坦懐で何でも話せる間柄だという事だけ覚えておきなよ。さあ、これから俺を何処へ連れて行くんだい? 一体、どんな珍しいものを見せてくれるんだい?」
(続く 予定だけど)