天界での展開(2)
「そりゃ、もう・・・って、何を口走らせるんだ。・・・・・・・これで、良いだろう。」
「どれどれ・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・」
「・・言い忘れていたけど、俺は、漢字が読めない。」
「漢字が読めないだと?」
「うん、コロッと忘れていた。だが、漢字を見た途端にめまいがして、何か忘れていた事を思い出してだな、さて俺は、一体何を忘れているのだろうかと改めて考えた。暫くすると、天界の入り口でのあれこれが浮かんで来て、俺は、漢字が読めなかったんだと思い出した。どうだ、凄い記憶力だろ?」
「●△◎※※◆・・」
「そこでだ、注文通り、五行にピッタリとおさめてはあるが、もう一度ひらかなで書き直してくれ。」
「早く思い出せよ、最も肝心な事柄だろうが。・・も~~・・・・ ・・・・ほらよ、これで三度目だぞ。もう何も言うな、言わずに『確かに確認した』と言ってくれ。」
「何も言わずに、『確認した』と、どうやって言うんだい? あっ、パントマイムで とか?」
「・・まず、早く 読め!」
「嫁の話は、口にするな! お互いにトラウマなんだから・・」
「もう、お願い致しまするから・・」
「・・・うん、これで良いだろう。・・あっ!」
「次は、何だ? ・・もう、いい加減に解放してくれないか・・」
「約束状は、これで結構なんだけど、俺の凄い記憶力で、また思い出した事がある。」
「今度は、何だ・・・」
「人 というか、天界の公務員を二人ほど待たせているのを、コロッと忘れてた。そしてだな、その公務員のひとりと、あんたの話をしていた時にだな、突発的な出来事が起きて、俺達二人は、話を中断しなければならなかった。中断の直前に俺が話そうと思っていたことを、今思い出したから訊くのだが、あんた、昔々に 椀椀椀椀 亦椀椀 亦亦椀椀 亦椀椀 という歌紛いを作ったのを覚えているか?」
「急に何を言い出すのかと思えば ・・うん、確かにその様な歌を作った覚えがある。」
「そうかい。分かった。ちょいと此処で待っててくれ。すぐに戻って来るから。・・」
「おいおい・・と言うて居る間に、姿が小さくなって行く。当に脱兎の如く だな・・あいつ、かなりのバカだが、バカはバカなりに使える事も有る。此処はひとつ短気の道を閉じて、奴が帰るのを待ってみよう・・」
「いやいや・・、あの猿そっくりの風貌に惑わされて、すっかり秘書と姉ちゃんのことを忘れていた。・・しかし、あのサル、知っておけば何かの時に役立つかも知れない。此処はひとつ、蜂須賀双六になり切って、奴と昵懇になっておくか・・」
「あの角を右に曲がれば、主倍津阿とかいうセンセの家だ。真っ直ぐに走れば30秒ほどで着くが、それでは面白くない。角を曲がる前に暫く停まって、秘書の期待通りにお二人さんの様子を覗いてやるとするか・・」
「・・そうですか、清廉女史もご両親様から早く良い伴侶を見付ける様にと急かされておられるのですか。」
「はい、それは、もう朝に夕にと言えるほどに・・」
「朝に夕にとは、また・・ 何かご事情でもあるのですか? あ、これは、差し出がましい事を・・」
「いえ、一向に構いません。私には、弟が居りまして、弟は、天界第2大学を卒業致し、天界検察庁の或る部署に勤務して居るのですが、弟もそろそろ年頃で、両親は、一日も早く彼に嫁を迎えて後を任せたいと・・ しかし、嫁を迎えるにあたり、小姑となる私が家に居たのでは、お相手の方も二の足を踏むのではと・・」
「それで、あなたに早く誰かに嫁げと?」
「はい、そういうことです。」
「そうですか・・ しかし、この天界も昨今は何かと考え方も変わってきておりましょう。女性と雖も、社会で活躍しておられる方が多い。一昔前とは違いご自分の生き方などをはっきりと主張なさって、バリバリ働いておられる方も珍しくないご時世なのに・・」
「・・うちの両親は、閻魔殿秘書室第一秘書の純真様の様に、女性の新しい生き方に理解を示すタイプではないのです。」
「そうですか・・ まあ、これも何かの縁。私で良ければ、プライベートな愚痴や悩みなど遠慮なくお話下さい。決して他言は致しませんから。」
「ありがとうございます・・」
「・・しかし、遅いですね、あの死人・・・ あっ、噂をすれば・・ おいっ! 一二三院四五六居士、あなた、やはり其処で私達のことを覗いて見ていたのですか!」
「ヘッヘッヘ そんなに怒らない、怒らない。俺は、真っ直ぐに帰ろうと思ったんだけどな、どうもお二人さんの醸し出す雰囲気が恋に発展しそうな気がしてだな、俺が、あまりにも早く帰ったのでは、『もう帰ったのですか? もっと他に散策したい処は無かったのですか? まったく嫌がらせですよ、こんなに早く帰ったのでは、二人だけの時間をゆっくり楽しめない!』などとお叱りを受けてもな~・・などと、ドンドン足の動きが遅くなって、歩幅も小さくなってだな・・」
「長々と言い訳は要りません。それに、私達は、ただ此処で教授のお宅からの返事が無いので待っていただけです。」
「待っていただけって、それは、あまりにも言い訳としては拙い。が、まあそういう事にしておきますよ。良いですか、貸しですからね。まあ、察するところ、素晴らしく楽しい待ち時間を過ごされていた様で・・」
「そんな事より、散策は、どうでしたか? また問題など起こさなかったでしょうね。」
「その事なんだけど・・」
「また、起こしたのですか!」
「そんなに目くじら立てるなよ。問題は、起きなかったけど、さっき、あんたと話した豊臣秀吉に出会ってな。」
「何? あの死人に?」
「はい。それで、奴とちょいと話したんだけど、話している間に思い出した。」
「何を思い出したというのです?」
「あんた、俺の歌を貶しただろ? そして、その時にだな、俺が豊臣秀吉を知ってるかって訊いたよな?」
「はい、よく覚えています。」
「あの時、俺は、豊臣秀吉の作った歌を引き合いに出して、俺の歌の方がマシだと言おうとしてだんだが、丁度悪い事にカーテンが裂けちまって、結局言えずに、その話は立ち消えた かと思ったんだけど、散策の時にだな、まったくたタイムリーというか奇跡というか、はたまた何と言おうか・・」
「話が、長い! もっと、端的に言えませんか?」
「そうは言うけどな、俺は、あんたと違って相当頭が悪い。物事を、順を追って話さなければ思い出せない構造に出来上がってるんだ。」
「分かりました。しかし、物覚えが悪いのを、その様に自慢気に言わなくても・・」
「あっ、今、俺の顔の表情を見て言ったな? 悪かったな、どうせ俺の顔は、笑えば泣いた様に、遜れば自慢げに、喜べば怒った様に見えるんだ・・」
「・・落ち込まない! もっと自分に自信を持ちなさい。」
「あんたが、落ち込ませてるんだろう。」
「・・それで? タイミングよく豊臣秀吉に会って・・」