小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

天界での展開(2)

INDEX|6ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

「なかなか機転の利く死人ですよ。私も先だって、風に飛ばされたバスタオルが電信柱に引っ掛かった折に、たまたま通りかかった類人院猿顔居士に、そのバスタオルを取って貰ったばかりです。さすが風貌が猿だけに、見事な登り降りでした。」
「そうですか。ところで、あの方々の処まで同道しては貰えませんか?この姿のままで、私だけが参りますと、また、秘密任務など話さねばなりません。もし、元銀行員のあなたが御一緒下されば、大いに助かるのですが・・ 私のこの姿は、世を忍ぶ仮の姿だということにして。」
「お廉い御用です。見破られない様に、適当に紹介しますので・・」
「ありがとう。」
「・・何だか、緊張しますな。既に長年の隠居暮らしでして、久々に公務のお手伝いをするなど・・、それに、私など、元々畑違いの職業でしたから。」
「とんでもない。さすがに長年の天界経験で、落ち着いたお姿ですよ。」
「そうですか?」
「はい、もう私など、あなたの様に早く落ち着いた風情を醸し出したいと願うのみです。」
「なかなか長幼の序を弁えたお方ですな。」
「お褒めに預かり、恐縮です。」
「・・」
「・・」

「こんにちは、皆さん。話に花が咲いておりますな・・」
「あら、生涯院金欠居士様。ご機嫌宜しゅう・・ あれ? その・・あなたの隣の随分と貧相な姿の者は? 死人でしょ?」
「はいはい、これに居りますのは、仰せの通り死人です。が、死人は死人でも、ただの死人ではありません。」
「・・と申しますと?」
「いや・・これ以上は、申せませんが、兎に角、ただの死人ではないという事だけは、はっきりと申しておきます。」
「・・そうですかぁ・・? まあ、町内会長など歴任された生涯院金欠居士様が、その様に申されるのでしたら、その薄汚れた装束、薄ら惚けた顔、片袖取れた死装束、うっすらと伸びた無精髭なども気にしない事と致しましょう。それで、御用の程は?」
「ああ、この死人・・がですね、そこに居る類人院猿顔居士に用事があるそうでして・・」
「おいらに用事だと?」
「はい、そうです。」
「あんた、名前は?」
「あっ、この方の・・いや、この死人の名を明かす事は出来ません・・」
「そうか、名を明かす事の出来ない者などとは、おいらは、話など出来んわ。」
「まあ、そう言わず・・」
「おいらを誰だと思ってる。痩せても枯れても毘沙門天様配下の類人院猿顔居士だぞ。おい、お前、名を明かせ。大体にして、人を介して知り合いに成ろうなど、十年早いんだ。」
「ヘッヘッヘ・・流石だな、さすがは生前関白様にまで駆け上った男だな。だが、この天界に来て、あんたの記憶は相当薄らいでいると見た。おい、サル! 覚えていないのか俺を・・よ~く見ろ、俺の顔を。」
「ん? ・・・・・」
「まだ思い出せないのか。蜂須賀双六だよ。」
「はちすか・・すごろく・・? 知らぬ名だ。」
「知らんだと? 思い出せ。お前と苦労を共にした蜂須賀小六のまた従兄弟のすごろくだ。」
「小六は覚えておるが・・ そのまた従兄弟など、覚えて居る筈が無かろうが。」
「無かろうが たって、それは、あんたの頭脳の衰えの所為だ。閻魔殿秘書室第一秘書の純真様のお言葉では、死人となった者は、相当意識を集中していなければ人間界での事などあっという間に忘れてしまうとのことだ。あんた、今をときめく毘沙門天様のお気に入りとなって、ちょいと有頂天が過ぎてるんじゃないのかい?」
「何だと!」
「悔しかったら、俺の事を思い出してみろ! どうだ・・思い出せないのか? だから、死人には苦労をさせなければならないと閻魔様も仰ってるんだ!」
「何? 閻魔様が・・? あ、う~、待てっ、暫し待ってくれ! 思い出すから・・」
「ああ、待つよ。だがな、そうそうは待てない。」
「う~~・・ あっ、思い出した! 居た・・、たしかに、小六のまた従兄弟に双六という者が居た。思い出したからには、おいらの記憶が薄らいでいるなどと、閻魔様には言わないでくれるな?」
「さあな・・」
「さあな って、お前・・いや、あなた・・・あなた様・・お願いでござる。お頼み申しまする。」
「・・どうしようかなぁ~」
「おい、いや、あなた様・・腹は減っておらんか?・・え? 満腹?・・では、何か欲しいものは?・・特に、無い だって?・・そうじゃ、女はどうじゃ? 世の男という男、女の嫌いな者は居らん。」
「そうかい・・」
「え? え~~っ? まさか、あなた様は、男色の・・ よし! 分かった、分り申した。」
「何を慌てふためいてるんだい? 俺は、あんたの如何なる質問にも応えてなどいないぞ。」
「では、男色というのは・・」
「あんた一人で勝手に猿芝居をしているだけだ。俺はな、ただあんたと話がしたいと思っただけだ。だから、その長ったらしい、慣れない敬語などで話すなよ。肩が凝る。」
「・・分かった。それで、お前、人間界で何処まで出世した? おいらも、高い位に成れば成るほど、若い頃に一緒に戦働きなどした仲間のことなど忘れてな・・」
「俺は、土木人足で一生を終えた。」
「えっ? ・・すまん、許してくれ。何がどうあろうと、共に戦った者を土木人足のままに捨て置くとは、おいらの不覚だった・・」
「好いって事さ。俺は、あんたみたいな出世欲など皆無に等しいから。」
「・・・」




行ったり来たり 言った切り


「俺は、あんたみたいに出世欲など皆無に等しいから。」
「二度も言うな。しかし、意外な言葉じゃのぅ、今までに、おいらが出逢うた者どもは、すべて出世を願うか金を欲するかじゃったぞ。」
「そうなのか? じゃあ、折角だから、あんたが今までに出逢った者達の様に、頭を下げたりお世辞を言っておこぼれを頂戴しようかなぁ・・」
「ふん! やはりな・・舌の根の乾かぬ内に宗旨替えかい。」
「まあな・・そんなところだ。その方が、あんたも遣り易いだろ? 俺を長年放っておいた詫びに何をくれるんだい?」
「今は、何もくれてやる事は出来ないが、おいらが出世したならお前が望む物をやるから。」
「そんな遥か先の口約束など、何の当てにもならない。」
「それでは、書面に認(したた)めよう。それならば、良いじゃろう。」
「よし、今すぐ書けよ。」
「分かった、暫し待て・・」
「・・」
「ほらよ、これで良いか・・」
「暫し待て・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・」
「・・・・・」
「・・」
「・・納得致したか? ・・・・おい、何とか応えろ。」
「う~~ん・・」
「何を唸って居る。たったの三行半だぞ。しかも、認めた内容は、簡潔明瞭。少し時間が掛かり過ぎるぞ。返答せい!」
「どうも、気に入らない。まず、三行半で書き終えたという事が気に入らない。三行半は、三下り半に通じる。俺は、生前、女房から何度も離婚届を突き付けられた経験があるから、この三行半を見ると、まず内容を確認する前に目が固まる。その後にだな、怖~い女房の顔が浮かんで消えなくなる。改行するなり書き加えるなりして、五行にしろ。その後で確認するから。」
「散々待たせておいて、理由はそれだけか。・・仕方ない、誰にでもトラウマはあるからな。」
「やはり、あんたも、寧々さんが怖いのか?」
作品名:天界での展開(2) 作家名:荏田みつぎ